2017.11.20

EU-JAPAN

EU域外での初勤務に意欲を燃やす新任通商部長

EU域外での初勤務に意欲を燃やす新任通商部長

駐日EU代表部で貿易や商業関係を巡るあらゆる分野で日本との窓口となり、進行中のEPA交渉を支援する通商部。その重要な業務を束ねる新部長に、本年9月、マリュット・ハンノネン氏が着任した。欧州委員会で長らく通商政策に携わったハンノネン氏に、部長としての抱負や赴任生活への期待を聞いた。

多くの国々と接点を持つ「貿易」に興味を引かれ

「この時期に、日本で通商部の部長を務めることができるのは素晴らしい経験。とても光栄です」。開口一番、ハンノネン氏は笑顔で着任の喜びを語った。日本と欧州連合(EU)は、本年7月に経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定(SPA)の大枠合意に達したばかりで、年内の最終合意を目指して、EPA交渉をサポートすることは通商部の大きな役割の一つだ。「日・EUのEPAは、世界最大級の貿易協定ですし、日本にとっても最大規模のもので、多くの人々から注目を集めています。まだ合意できていない事項には難しいものもありますが、非常にやりがいがあります」と意欲を見せる。

ハンノネン氏は、母国フィンランドがEUに加盟した翌年の1996年に欧州委員会に入った。大学でEUの競争法を専攻し、欧州委員会でも競争総局に籍を置いたが、次第に貿易交渉へと軸足を移していく。「競争法は、基本的にEUの域内市場が対象です。一方、貿易ではEU域外の多くの国々と接点を持ちます。その国際的な側面に興味を引かれました」と話す。

欧州委員会の本部があるベルギー・ブリュッセルに20年近く住んだ後、今回生まれて初めて、欧州以外の国に住むこととなった。本部で対アジア通商政策を担当したことから、アジアの国々に関心があったことに加え、EPAとSPAの重要な協定の交渉という、挑戦的な仕事に携わりたかった。そして何よりも、東京という街に魅力を感じたことが、日本でのポストを希望した大きな理由だと語る。「自分の住む街が好きになれるかどうかは、とても重要です。東京は大都会なのに、他の都市のように慌ただしい感じはなく、静かで穏やか。しかも整然としていてきれいです。美術展やコンサートなどの文化的な催しも充実していて楽しい」と自らの選択には満足そうだ。

多文化の環境で培われた感覚で理解する、日本や日本人との共通点

欧州委員会の通商総局に勤務していた頃、何度か日本政府や日系企業と交渉する機会があった。当時の日本人に対する印象については、「意見の表し方が私たち欧州人と異なり、正直に言って、彼らの意図をくみ取るのに苦労することがありました。日本の人々は、欧州人ほど表現がストレートではありませんから」と振り返る。それと同時に、「逆に欧州人は直接的なので、日本の人々にとっては失礼だと感じたかもしれませんね。しかし、それは両者のコミュニケーションのアプローチが異なるだけ。時間をかけて丁寧に議論を重ねれば大丈夫」と話す。

「以前の職場にはハンガリー人、フランス人、フィンランド人、スペイン人などのさまざまな文化的背景や国籍を持つ人がいました。同じ欧州でも、例えばスペイン人とフィンランド人の対応の仕方は随分と違います」。EUの機関で働いていたおかげで、多文化・異文化間のコミュニケーションには慣れている。

日本はフィンランドとの共通点が多い、とも語る。「全てが整然としていて、質やディテール、美意識にこだわる点は同じ。建物やインテリアなどのデザインも、シンプルで美しいものが多いですね。国民性も比較的穏やかで、物静かなところが似ています。地下鉄の中でも皆静かでしょう? 沈黙を不安に感じる文化もあるようですが、フィンランドや日本ではむしろ重んじられるのでは」。

ハンノネン氏は、母国語であるフィンランド語のほか、英語、フランス語、ドイツ語も堪能だ。「以前はスウェーデン語も話せましたが、久しく使っていないので今は聴いて理解できる程度。だから、不自由なく話せるのは4カ国語ですね」。さらに来日して、日本語のレッスンも始めた。「次にインタビューを受ける機会があれば、少しでも日本語で対応できるようになっていればいいですね。そのためにも一生懸命、頑張ります」とチャーミングな笑顔を見せた。

円滑に働ける環境を整えたい

ハンノネン氏が信頼を寄せる通商部のスタッフは、現在14人。網羅する分野は、航空、通信、エネルギー、農業、環境などと幅広く、関連する本部の総局(日本政府の省に相当)の数は14に上る。さらにEPAの交渉をサポートする業務もある。「忙しいからこそ、働く環境を良くすることが大切で、それが私の重要な役目でもあります」と強調する。

部長として特に重視しているのは、より良い人間関係の構築。「情報共有や意思決定の透明性を確実にすること、そしてよく話し合い、相談することが大事だと思います。きちんと背景を理解しながら『プロセスに参加している』という実感を持って遂行することが、モチベーションを上げることにもつながりますから」と断言する。

オンとオフのどちらも充実させる

日本へ赴任して、はや2カ月余り。日中は打ち合わせや外出が多く、書類やメールの処理などは事務所に戻ってきてからの作業になるが、「その日の仕事は、その日のうちに終える」ことを常に心掛けている。「なるべく翌日に持ち越さず、一日をフレッシュに始められるようにしています。仕事は平日に集中して取り組み、週末はしっかりと休むことも忘れません」。好きな美術館巡りのほかにも、ジムで体を動かしたり、ヨガやピラティスで体調を整えたりするなど、メリハリのある日々を過ごしている。それが、効率的な仕事ぶりと、長身でスリムな体型を維持する秘訣なのだろう。

「やりたいことがいっぱいあって、週末はあっという間に過ぎてしまいます」と笑う。「時間ができたら、アートの島として知られる香川県の直島へ行ってみたい。スキューバダイビングが好きなので、沖縄にも興味があります。日光や奈良、大阪なども心惹かれますし――京都へは以前一度行きましたが、ぜひ再訪したいですね」と、その好奇心と行動力は常に全開だ。

EPAを機に、さらにEUへの理解が進むことを期待

EPAやSPAを通して、今後ますますEUは日本にとって重要なパートナーとなっていくことは間違いない。欧州は、優れた製品やイノベーション、観光、芸術をはじめ、政策や文化のさまざまな分野において日本とのつながりを持ち続けてきた。その一方で、「日本の人々にはもっとEUへの理解を深めてもらえるのでは」とハンノネン氏は期待する。「個々の欧州の国々について、すでに日本の人々はよく知っています。これからは欧州をEUという一つの大きなまとまりとして捉え、その役割について理解し、日本とEUのパートナーシップを相互に築いていければうれしい」と締めくくった。

プロフィール

マリュット・ハンノネン Marjut HANNONEN
駐日EU代表部公使参事官、通商部部長

フィンランド生まれ。1992年、ヘルシンキ大学卒業。1995年、ザールランド大学ヨーロッパ・インスティチュート(ドイツ)で欧州法の修士号を取得。1996年、欧州委員会に入職。2010年から2014年まで、アジア諸国との通商関係のほか、市場アクセス戦略、加盟国との関係など、部門別通商問題を管轄するデ・グフト通商担当委員官房の一員として活躍。通商総局では、EUの自由貿易協定の実施、およびアジア・南米に関する顧問を務めた。多国間および二者間の通商交渉、通商防衛策をはじめ、これまでに担当したEU通商政策分野は多岐にわたる。2017年9月より現職。

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