銭湯の魅力を世界に発信するフランス人

2016/09/08

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交換留学中に出会った銭湯に魅了され、世界に向けてその魅力を発信してきたステファニー・コロインさん。2015年12月に初代「銭湯大使」に任命されたステファニーさんに、銭湯の魅力と楽しみ方について聞いた。

銭湯への愛が評価され、銭湯大使に

この日は、ステファニーさんお気に入りの銭湯の一つ、天然温泉が自慢の「はすぬま温泉」(東京都大田区)でお話を伺った。「はすぬま温泉」を営む近藤和幸さんは、全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連)理事長を務め、ステファニーさんを初代銭湯大使に推薦した人物の一人でもある。銭湯大使は、銭湯文化の普及・促進などを目的とする日本銭湯文化協会が、2015年に始めた取り組みで、近藤さんがステファニーさんの銭湯への愛と発信力を評価し、白羽の矢を立てた。

銭湯をこよなく愛するステファニーさんは、後継者問題や利用者の減少などにより廃業が続き、銭湯文化が衰退の危機にある中、「銭湯になくなってほしくない。銭湯の魅力をいろんな人に伝えたい」と、訪れた銭湯の写真やレビューを自身の Instagram(インスタグラム)に投稿。また、2015年3月にはウェブサイト「Tokyo Sento」を立ち上げて、英語と日本語で銭湯の魅力を発信してきた。

「銭湯大使に任命されたことで、自分の活動を認められたと感じてうれしかった」という。就任後は、銭湯関連のイベントに参加するほか、自身も、銭湯巡りと居酒屋での親睦会を組み合わせたイベントなどを企画している。また、銭湯の外国人向けPRポスター制作の際などに、「外国人の視点からの意見」を求められることもあるという。

「銭湯大使」の任命書を手にするステファニーさん。任期は2年で、初代大使にはステファニーさんのほか、プロボクサーの木村悠さんが任命された(2015年12月、東京・千代田区の東京都浴場組合本部)  © stephaniecrohin(@_stephaniemelanie_)

留学中に初めて銭湯を体験

フランスの大学で日本文学を専攻していたステファニーさんが、交換留学生として来日したのは、2008年。銭湯との出会いは、留学先の大学の近くにあった妙法湯(東京都豊島区)。大きな湯船でお湯に浸かる気持ち良さに感動したのはもちろん、日常と隔離された独特の雰囲気、常連客を中心とする温かいコミュニティ、気取りのないつきあいなどに、「日本の文化を感じ、すっかり気に入った」という。そして、毎週のように銭湯に通うようになったそうだ。

1年間の留学後、フランスに帰国したステファニーさんは、卒業後日本で仕事をすることになり、2012年に再び来日。住まいとして候補になった物件を地図で確認すると、妙法湯から徒歩6分だとわかり、即決。妙法湯の主人もステファニーさんのことを覚えていたという。「今でも、妙法湯に行くと、お風呂上りにビールを飲みながらご主人と話し、お湯に入っている以上の時間を費やします」。

美容・健康や精神面での効果

「ゆっくり入浴することは、フランスのスパのような美容効果があると思う」とステファニーさん。お湯に浸かって温まった後、洗い場で顔にパックをしながら、簡単なストレッチをすることもあるという。入浴後は肌がツヤツヤになるそうで、「銭湯はデートの前にもお勧めですよ」と笑う。健康面では、冬でもあまり風邪をひかなくなったそうだ。

銭湯では、広い湯船の中で手足を伸ばしてリラックスできるため、心の疲れにも効果てきめんだとか。さらに、「お湯に入りながら、背景画を眺めたり、隣の人と雑談したりしていると、いやなことを忘れられますね」と銭湯ならではの利点を挙げる。「仕事で来日した直後は、日本の会社文化やビジネスマナーに慣れるのに苦労し、ストレスを抱えていましたが、銭湯に入ることで救われました。職場では、夜に銭湯に行くことだけを楽しみにして、がんばっていたほどです(笑)」。

【写真左】ステファニーさんもお気に入りの「美肌の湯」として知られる銭湯「はすぬま温泉」【写真右】同銭湯の主人で全浴連理事長の近藤さんの横で、「湯が『わ板』=沸いた」と開店を知らせる札を持つステファニーさん。ちなみに裏は「ぬ」で、「湯を抜いた=(閉店)」の意味(2016年8月、東京・大田区)

今では流暢な日本語を操り、日本の生活にもすっかりなじんでいる彼女だが、日本人の本音と建て前の使い分けには違和感を抱くことがあるという。「銭湯に来ると、日本人も自然体のコミュニケーションをしてくれると感じます。あるとき、常連さんに『ステファニーさん、太ったわね』と言われました。驚きましたが、本当のことを言ってもらえるのはうれしいですよね」。こうしたふれあいも、ステファニーさんが銭湯を愛してやまない理由の一つだそうだ。 

銭湯は日本のアートの集まり

銭湯のもう一つの魅力について「銭湯は、日本的アートの宝庫ですし、あちらこちらに日本の職人さんの仕事が感じられます」と話すステファニーさんが、銭湯で必ずチェックするのは浴場の壁に広がる背景画。背景画には、ペンキ絵とセラミックタイルのモザイク画があるが、ステファニーさんは「どちらも、それぞれ風情があって好き」という。

ステファニーさんが撮影した背景画の写真。訪れた銭湯を撮影し、ウェブサイトで公開している  © stephaniecrohin(@_stephaniemelanie_)

背景画だけでなく、「床のタイルもレトロな感じで風情がある」という。そのほかにも、靴を入れる下駄箱のカギ「下足札」、「男湯」「女湯」を案内するのれん、フロントなどにおいてある飾り物や小物類なども、銭湯ごとに味があり、日本文化を感じるという。「銭湯はギャラリーです」というステファニーさんの言葉にも納得だ。

都内各地の銭湯をお遍路中

ステファニーさんは周囲の友人を銭湯に誘ったり、日本を訪れる外国人観光客を銭湯に案内したりすることはもちろんだが、加えて2年ほど前から東京都浴場組合が発行する『東京銭湯お遍路巡礼スタンプノート』を持って、都内の銭湯を巡っている。都内約600軒の銭湯のうち、すでに400軒は訪れたという。仕事で出かけた後や、友だちと遊びに行った後など、アプリの情報を元に、出先近くの銭湯に寄るそうだ。また、行ったことのない駅に降り立ち、周辺の銭湯巡りをすることも。1日に4軒の銭湯をはしごすることもあるという。

「それぞれの銭湯に魅力がありますし、ご主人の個性が出るので、誰かの家を訪問したような気分になります」。見た目は、レトロ感がありカラフルな銭湯が好きだが、露天風呂だったり、水風呂だったり、温泉だったり、そのときの気分に合わせて選ぶという。

いつでも銭湯に立ち寄れるように、普段から銭湯セットを持ち歩いている。小さなポーチに、自然派のローション、クリーム、クレンジングにも保湿にも使えるココナッツオイル、歯磨き粉、使い切りシャンプー、ヘアゴム。「でも、銭湯は手ぶらで行っても問題ありませんよ。タオルやシャンプーも売っていますし、レンタルできる銭湯も多くあります」。 

 

銭湯お遍路も楽しみ方の一つ。それぞれの区でスタンプラリーをやっていることも多い

銭湯を観光の目的の一つとして広めたい

実は、ステファニーさんは7月に会社を退職して、今後はフリーランスで銭湯ライター・カメラマンとして、またイベントの企画などの活動をしていく。もちろん、大使就任前から続けていたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通した銭湯の魅力発信なども引き続き積極的に行っていくつもりだ。

「外国の日本のガイドブックには、温泉の情報は載っていても、銭湯の情報は載っていません。銭湯の存在を知らない人が多いですし、知っていても、こんなにたくさんあることは知られていません。銭湯は素晴らしい日本文化なので、旅行者には、ぜひ日本観光の目的地に銭湯を入れてほしい」。今年末には、フランスで発行する日本のガイドブック内で10ページほどにわたり、銭湯を紹介する予定だ。目下の目標は、銭湯の案内本を海外で出版すること。銭湯の魅力を視覚で訴えようと、多くの写真を撮りためている。

「銭湯は、日本人も外国人も、一度行けば、みんな好きになるはずだと思っています。課題は、最初のきっかけをいかに作るか。私が銭湯の魅力を発信することで、きっかけを作ることができたらうれしいですね」。

日本人でも忘れかけている銭湯の魅力を、世界に広める銭湯大使として、今後ますます活躍することが期待される。

プロフィール

ステファニー・コロイン Stephanie Crohin

フランス・プロバンス出身。リヨン大学で日本文学を専攻し、2008年に交換留学で来日。その際に銭湯と出会いファンとなる。2012年に仕事で再来日。銭湯巡りを楽しむ日々を送りながら、訪れた銭湯の写真をSNSで発信したり、イベントを企画するなど、日本独特の文化である銭湯の魅力を世界中の人に広めたいと活動中。

関連情報

ステファニーさん運営のサイト「Tokyo Sento
ステファニーさんのInstagram(インスタグラム)

2016/09/08

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