2016.9.20
Q & A
イスラム系過激派の活動が活発化する中、昨年11月にはパリで、本年3月にはブリュッセルで同時多発テロが発生し多数の犠牲者を出したほか、7月にはニースでもテロ事件が起きるなど、欧州はここ10年で最も深刻なテロの脅威に直面しています。欧州市民が自由で安全な社会で生活するためには、欧州連合(EU)加盟国が結束してテロに立ち向かうことが必要不可欠です。
欧州委員会は昨年4月に、EUとして安全保障上の脅威に効果的に対応することを目指し、2015年から2020年までの「欧州安全保障アジェンダ(European Agenda on Security)」を採択。この中で、EU加盟国の法執行機関間協力のためのユーロポール(Europol、欧州警察機関)の能力を増強するため、「欧州テロ対策センター(European Counter Terrorism Centre=ECTC)」の設立構想を発表しました。
昨年11月にはEU理事会がこれを承認、本年1月にECTCがユーロポールの一部門として立ち上がりました。ユーロポール内には、パリの同時多発テロ直後に特別チーム「タスクフォース・友愛」(Taskforce Fraternité)」が開設され、フランス、ベルギー両国の警察と連携して活動をしていました。ECTCが意図する活動は、事実上すでに展開され始めていたとも言えます。
加盟国内の治安は原則各国の権限ですが、EUでは欧州共通のアプローチとして、従来からユーロポールが中心となってEU全域でのテロ対策を展開してきました。しかし、パリのテロ事件では実行犯の多くがベルギー在住だったことなども判明し、テロ対策面で各国間の情報交換が不十分だったことも指摘されています。ECTCは加盟国当局間の相互信頼を強め、業務連携と情報共有を改善し、EU全体としてのテロ対応能力を最大限に高めることを目的としています。
ECTCは、オランダ・ハーグに本部を置くユーロポールの運用部門の一部です。センター長はマヌエル・ナヴァレテ・パニアグア氏。スペインの治安警察(Guardia Civil)高官としてテロ対策で豊富な経験を持ち、ユーロポール内でも従来からテロ対策ユニットの長を務めてきた人物です。職員39人と5人の出向専門官でスタートし、さらに25 人の担当官を補充するため、200万ユーロの特別予算拠出が4月に欧州議会で可決されました。ECTCは欧州サイバー犯罪センター(European CyberCrime Centre=EC3)をはじめとするユーロポールの他の運用センターと連携しながら24時間態勢で活動しています。
ECTCの主な活動としては、外国人戦闘員問題への対処、テロリストの資金調達ならびにネット上のテロ・暴力的過激主義の宣伝活動や武器密売などに関する情報収集と専門知識の共有、効果的なテロ対策と予防措置のための国際協力推進などがあります。ECTC始動にあたり、ユーロポールは関連の情報システムとネットワークを増強し、加盟各国当局との情報交換を大幅に効率化しました。また、何カ国にもまたがる国際犯罪に対する捜査能力を高めるため、ECTCに各国から専門官を出向させ、EU内で大規模なテロ攻撃が起こった際には迅速かつ包括的なサポートを提供できる態勢も整えました。
3月末のブリュッセルでの同時多発テロの後には、ECTCがベルギー警察およびユーロポールと共同で作戦会議を主催しました。この会議には50カ国以上のテロリズム専門家と30カ国以上の捜査官が結集、捜査を相互支援するための活発な情報交換を行うなど、ECTCの活動は確実に成果をもたらしています。
ユーロポールはECTC始動にあたり、ユーロポールと加盟国の間で犯罪に関する機密情報を安全に情報交換できる最先端ツール「セキュア情報交換ネットワークアプリケーション(Secure Information Exchange Network Application=SIENA)」と、「ユーロポール情報システム(Europol Information System=EIS)」の2つのシステムを刷新。これにより、従来以上に安全な通信環境が確立され、各国当局間の情報開示と情報交換を促進できるようになりました。
ECTCが特に力を入れているのが、マネーロンダリングやテロ資金など疑わしい金融取引に関する情報の収集や分析です。欧州の単一市場は、貿易、競争、消費者の選択、雇用と繁栄の一方で、犯罪者やテロリスト、テロ資金の自由な移動という負の作用も生み出しています。テロリストたちは、移動や拠点の維持、通信機器や武器の入手などに多額の資金が必要とされ、EU内では1,100億ユーロもの不正資金が流通しているともいわれています。
この情報収集・分析に威力を発揮するのがユーロポールが運用する「各国資金情報機関のプラットフォーム(Financial Intelligence Unit.net=FIU.net)」という分散型のコンピュータネットワークです。中央にデータベースを置かず、各加盟国の金融情報システムを統合する形で運用しており、必要時に各国がこれを利用して疑わしい海外送金情報などを安全に交換できる体制を整えました。ECTCはFIU.netから得た情報を、ユーロポールの分析システムの一部である「テロリスト資金追跡プログラム(Terrorist Finance Tracking Programme)」のデータと照合し、資金と犯罪の関係を確定していきます。ECTCの活動により、加盟国当局だけでなくインターポール(Interpol、国際刑事警察機構)、ユーロジャスト(Eurojust、欧州検察機関)などのパートナー機関も、テロ対策の情報管理を効率化することができるようになりました。
テロや過激行為を奨励するようなネット上の情報の収集分析も、テロ対策では重要な役割を果たします。テロリスト集団は、洗練された外見のウェブサイトを通して聖戦の呼び掛け、追従者のリクルートなどを行っています。こうしたオンライン情報を追跡してテロリストの身元を割り出すために使われるのが、ユーロポール内の「EUインターネット照会ユニット(EU IRU)」です。
このユニットは昨年7月に15人のユーロポール職員と専門家でスタートしました。ECTCはEU IRUと連携し、テロリストや過激派の関わりが疑われるオンラインコンテンツについて、インターネットのサービスプロバイダーなどと情報を共有することで、迅速に出所を確定し、法的措置を取るための分析情報を提供します。
最初の作戦として、EU IRUは9月にフランス、ドイツ、スロヴェニア、英国の各IRUに呼びかけ、テロや過激派のプロパガンダと目される1,677件のコンテンツの合同調査を指揮しました。これらコンテンツ配信にあたっては計35のソーシャルメディアとサービスプロバイダーが利用されており、使用言語は6カ国語に上っていました。各国IRUのIT専門家、アナリスト、翻訳者、対テロ専門家チームがこれを分析、確定し、ホスティングしていたプロバイダー自身は、自社の利用規約に基づいてコンテンツを削除しました。
「タスクフォース・友愛」は特別編成の担当捜査官60人を投入し、さまざまなツールを活用して、テロのタイムライン分析、現場検証結果の分析、マネーロンダリングやテロ資金など疑わしい金融取引に関する情報の収集といった多面的展開で国境を越えた捜査を展開しました。
ECTCはこれを引き継ぐ形で、フランスとベルギーの当局から大量のデータを受領、75件の報告書を検証し、セキュア情報交換ネットワークアプリケーション(SIENA)を使って2,100件以上の機密情報交換を行い、1,600件以上の疑わしい送金情報を割り出しました。この結果、最終的には800件近い有力な手がかりを得ることができたのです。ECTCはこれからも、テロ対策の能力をさらに高めるため、活動を強化していきます。
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