人の自由移動が進むEUの犯罪への取り組みは?

2014/10/30

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Q1.人の移動が自由な欧州連合(EU)では、国境を越えてどのように犯罪に取り組んでいますか

EUは、人、物、サービス、資本の自由移動を保障する、域内に国境がない領域(単一市場)の創設をその主な仕事の一つとしています。このうち、人の自由移動を達成するには、加盟国間の国境での出入国審査を撤廃すると同時に、加盟国と第三国との間の国境での出入国管理を強化する必要があります。EUはこうした人の自由移動の枠組みを徐々に構築してきました。

人の自由移動の実現と並行して必要となるのが、加盟国間の警察協力と刑事司法協力です。EU域内で人が自由に移動できるようになるに従い、犯罪者も自由に移動できるようになります。しかし一方で、警察や刑事司法は、伝統的に国家がその領土内で行う仕事と考えられており、EU加盟国も例外ではありません。このことは裏を返すと、EU加盟国を含め、国家は他国で警察権等の行使ができないことを意味します。そこで各国は、国境をまたぐ刑事事件の解決のために、他国と条約を結ぶなどして、国同士の刑事司法の協力体制を整えてきました。

人の移動が自由なEU。犯罪には欧州逮捕状、ユーロポール、ユーロジャストなど独特の制度で対応している © European Union, 1995-2014

このような一般的な刑事司法協力は、あくまでも各国の主権を尊重するものです。例えば、ある国で犯罪を犯した者が他国へ逃亡した場合には、犯罪が起きた国が、容疑者がいる国に対して容疑者の引き渡しを請求します。引き渡しを請求された国は、それに応じるかどうかを判断しますが、その際、被請求国は、引き渡し請求の理由とされる行為が自国でも犯罪とされているか(双方可罰性)、引き渡しをすることが自国法に反しないか(例:引き渡し犯罪に該当しない、憲法が自国民不引き渡しを規定している、死刑制度を有する国への引き渡しを禁止している)などをチェックします。問題がなければ、引き渡しが行われますが、そうでない場合には拒否されます。

このように、各国の主権を尊重する従来型の刑事司法協力の仕組みでは、国境をまたぐ刑事事件の解決に対する障害となることがあります。そこでEU加盟国は、これまでの刑事司法協力の仕組みを超え、さらに協力を強化するため、各加盟国に加えて、EUが犯罪の防止と撲滅のための仕組みを作れるようにしてきました。その中には、欧州逮捕状(European Arrest Warrant)や、ユーロポール(Europol、欧州警察機関)、ユーロジャスト(Eurojust、欧州検察機関)など、EU独特の制度があります。

Q2.欧州逮捕状の仕組みを教えてください

欧州逮捕状制度は、EU加盟国が、他のEU加盟国が発行した欧州逮捕状を、自国で承認・執行するシステムです。欧州逮捕状は、犯罪組織への参加、テロ行為、サイバー犯罪、殺人など32の犯罪に対し発行されます。これらの犯罪が発生した場所の加盟国が、欧州逮捕状を発行し、容疑者が居る加盟国に送付した場合、受領した加盟国は、当該欧州逮捕状を承認し、速やかに執行します。EUでは人の移動が原則自由なため、犯罪者も、他の加盟国に容易に逃げることができます。しかし、犯罪が行われたEU加盟国の警察・司法当局は、他の加盟国で警察権、刑罰権を行使することはできません。そこで、代わりに加盟国の警察・司法当局自身ではなく、逮捕状が加盟国間の国境を越えて犯罪者を追うように作られたのが、欧州逮捕状です。

加盟国間を犯罪者が逃走している場合には、欧州逮捕状が国境を越えて追う仕組みになっている © 2014 Europol

また、EUでは、人の自由移動が実現されている一方で、刑法が各国ごとに異なるため、ある国で犯罪を行った者が、その行為を犯罪としない他の加盟国に逃げることが容易にできます。このような場合、伝統的な刑事司法協力の仕組みでは、容疑者の逃亡先の国に引き渡しを請求しても、その国の法律では犯罪ではないという理由で、引き渡しが行われないことがあります。こうした問題を解決するため、欧州逮捕状は、次のような仕組みを取り入れています。

欧州逮捕状は、犯罪組織への参加、テロ行為、サイバー犯罪、殺人など32の犯罪に対し発行される © 2014 Europol

欧州逮捕状制度を導入した EU法令は、どの加盟国でも処罰されねばならない32の犯罪類型を列挙しています。ただし、この32の犯罪類型にどのような行為が該当するのかは、EU法ではなく、各加盟国法によって決められています。例えば、妊娠中絶や安楽死が殺人罪に該当する加盟国もあれば、そうでない加盟国もあります。しかし、妊娠中絶を殺人罪としている加盟国が、殺人(妊娠中絶)の罪状で欧州逮捕状を発行し、妊娠中絶を殺人罪と考えていない加盟国に送付すれば、妊娠中絶を殺人罪と考えていない加盟国でも、殺人(妊娠中絶)の罪状で発行された欧州逮捕状が執行されます。

このように、容疑者が、犯したとされる罪を犯罪としていない他の加盟国に逃げても、かかる犯罪が行われた加盟国が発行した逮捕状が、国境を越えて容疑者を追いかけ、当該行為が厳密には犯罪とされていない他の加盟国でも執行されるように作られたのが、欧州逮捕状です。

Q3.ユーロポール、ユーロジャストとは何ですか

国境をまたぐ刑事事件の解決のためにはユーロポール、ユーロジャストの活躍が欠かせない © 2014 Europol

欧州逮捕状の執行の事例からも読み取れるように、国境をまたぐ刑事事件の解決には、各加盟国の警察・刑事司法機関の間の協力が欠かせません。そこでEUは、加盟国間の警察協力のためのユーロポール、刑事司法協力を促進するためのユーロジャストを設置しています。両機関ともオランダ・ハーグに拠点を置いており、ユーロポールは1999年7月に本格的に始動し、ユーロジャストは、前身の組織が2000年12月より暫定的に稼動していましたが、2002年2月に正式に設立されました。

アルキメデス作戦はEU加盟国を含む 欧州34カ国、ユーロジャスト、インターポール等が連携して行われた。写真は、ギリシャで不審物を調べる麻薬探知犬 © 2014 Europol

ユーロポールの任務は、加盟国の警察当局等の活動や相互協力を支援することにより、複数の加盟国に関わる重大な犯罪やテロ行為などを防止し、それらに対応することです。ユーロポール担当官には、直接容疑者の逮捕を行う権限はありませんが、情報を収集、分析、提供し、また各加盟国の作戦を調整する役割を担うことで、EU加盟国の警察当局等の活動を支援します。ユーロジャストの任務は、訴追を必要とする複数国間の重大犯罪に関して、加盟国当局やユーロポールの活動・情報に基づき、加盟国の捜査とともに、検察当局間の捜査や執行の調整・協力を支援し、また、国際的な司法共助や犯罪人引渡し要請の実施の促進を行うことです。ユーロジャストは、加盟国当局が国境をまたぐ犯罪に対処する際に実効的な捜査・執行ができるよう、最大限の支援を行います。

個別の加盟国の当局の活動をEUレベルで調整し連携させる役割を担うユーロポール、ユーロジャストは、国境をまたぐ重大な犯罪が増加する中、その対応策の柱として、ますます重要になってきています。例えばユーロポールは、EU加盟国を含む欧州34カ国やユーロジャスト、インターポール(国際刑事警察機構)等と連携し、麻薬の製造・取引、人身売買、不法移民の仲介、窃盗、武器取引、模倣品などに関わる組織犯罪を壊滅するための、大規模な「アルキメデス作戦」の調整を行い、作戦は本年9月下旬に実施されました。この結果、コカイン599キロ、ヘロイン200キロおよび大麻1.3トンが押収され、1,027人が逮捕されました。

執筆=東 史彦(慶應義塾大学大学院法務研究科 非常勤講師)

※タイトル写真の出所: 欧州議会

2014/10/30

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