地理的表示(GI)制度について教えてください

2015/07/14

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Q1. 地理的表示とは何ですか?

「地理的表示(Geographical Indication=GI)」は知的財産権の一つであり、国連の世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organisation=WIPO)によれば、以下のように定義されています。

「特定の地理的起源(原産地)を有し、その原産地に由来する高い品質や評価を備える製品に用いる表示。GIは、対象製品が、当該地を原産とするものであることを明示しなければならない。同時に、その製品の品質、特徴、評判が、主として原産地に起因するものでなければならない。その品質が原産地に由来することから、製品と原産地の間に明らかな結びつきがあるとする」

WIPOが管理する知的財産権に関する条約の一つである「原産地名称の保護および国際登録に関する協定」(略称「リスボン協定」)※1は、特定の場所を原産地とする生産物を表示する「原産地名称(Appellations of Origin)」の国際登録制度を定めています。この制度は、加盟国が自国で保護している原産地名称が他の加盟国においても保護されることを可能にするものです。リスボン協定は2015年5月末に改正され、原産地名称に加え全てのGIの保護にも適用されることになったほか、EUをはじめとする政府間組織にも加盟の道が開かれることとなりました。

 © Oliver Hoffmann

世界の中には、それぞれの地域に根差し、固有の製法で作られるさまざまな製品が、GI認定により売り上げを伸ばすなど、大きな恩恵を受けている国々があります。日本はリスボン協定に加盟していませんが、日本政府は、日本の農産品や醸造酒(ワイン類)・蒸留酒(スピリッツ類)の国外での売り上げや評価を高めようとしています。日本が最近、農産品に対して、独自(sui generis※2)のGI制度を導入したことからもわかるように、第三国において日本のGIが保護されることは、GI名称の乱用を防ぐために、ますます重要になるでしょう。

GIは知的財産権の一つであるため、リスボン協定以外にも、さまざまな国際合意にGIに関する規程が含まれています。世界貿易機関(World Trade Organization=WTO)の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights=TRIPS)」では、人々に誤解を与えたり不公正な競争を招いたりしないよう全加盟国に義務付けることによって、全てのGI製品に対し一般的な保護を与えています。醸造酒や蒸留酒に関しては、この一般的保護より一段手厚い保護が与えられており、WTO加盟国は、例えば「中国産のシャンパン」などと、原産地名を明記している場合でも、「シャンパン」というGI名称を用いることは認められていません。

こうした国際ルールをどのような手段で実施するかは各加盟国に委ねられています。日本の「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法=GI法)」のように独自のGI法でも、商標法、消費者保護法、その他の法律でもよいわけです。

WTOのドーハ開発ラウンド※3の通商交渉においては、多角的GI登録制度を創設すること、そして、醸造酒と蒸留酒のGIと同様の保護を全農産品に拡大することが討議されています。こうした努力が積み重なれば、いつかGIは世界中により優れた形で定着し、国際規模の保護が向上することでしょう。

Q2. GIを保護するとどのような利点があるのでしょうか?

イタリアのパルマ・ハム(下)とバルサミコ酢(右)、フランスのノルマンディー地方のカマンベール・チーズ。いずれもEUのGI制度で保護されている  © KURITA Michiko

GIを保護することは、多くの関係者(生産者、消費者、輸入・輸出業者、農村地域など)に、経済・文化・社会・環境面でさまざまな便益をもたらします。

GI制度は、特定の地域に固有の製造方法で造られた製品の名称を特定し保護することが目的なので、多様な農業生産を守り、農村地域の発展に貢献します。GI製品の生産者たちは、製品の仕様を定め、製法を明確にするばかりでなく、製品を販売する際にも、協力し合わなければなりません。こうした協同作業によって、社会の結束力が高まり、その製品に関連した雇用――生産や加工の現場であろうと、または飲食店や観光といったサービス業であろうと――を創出することにつながるのです。GI製品の生産は、その地域との結びつきが不可欠で、他の地域へ動かすことはできないため、農村社会での確実な雇用が生み出されるのです。

GI製品は従来のものに比べて多少高くつくかもしれませんが、特定の地域で、厳格に定められた製法で作られた製品であることが保証されます。製品についている認証マークは、その証拠であり、また、ひと目でそれと判別できる役目を果たしているのです。

生産者にとっての最大のメリットは、GIの名称が法的に守られていることでしょう。強いブランド力とGI認証は付加価値を高め、市場力と輸出潜在力を高めます。しかしながら、GI名称の知名度が高まり、商売上の利益と価値が高まれば、模倣や乱用の可能性も高まります。適正な法的保護がなければ、誤用や一般名称化の標的となり、生産者に損害を与え、また、GI制度への消費者からの信用も損なわれる危険があります。GIを使用する権利を持つ生産者は、しっかりした法的保護の下で、GIの評判を悪用して利益を上げようとする者や、権利なくGI名称を使用する者に対して、法的手段を行使することができるのです。 

Q3. EUと日本のGI制度はどのように異なるのでしょうか?

EUには、農産品、ワイン、蒸留酒についての独自のGI制度があり、全加盟国に適用されています。その制度は、伝統的にGI保護を行ってきたフランス、イタリア、ドイツなどのEU加盟国の国内制度を基にして開発されたものです。EU域内で与えられている法的保護は、TRIPSで醸造酒や蒸留酒のGIに与えられるもの以上で、極めて高いものです。現在、EUでは、GI制度を、農産品以外、例えば、手工芸品などにも拡大しようと検討しています。

大きな日輪を背負った富士山と水面をモチーフに、日本国旗赤や伝統・格式を表す金色を使用した日本のGIマーク

日本は、醸造酒と蒸留酒についてはTRIPSが規定する範囲内でGI制度を施行してきました。ただし、日本各地には、本来ならGIに指定されて然るべき蒸留酒が極めて豊富にあるにもかかわらず、醸造酒と蒸留酒双方でたった6品目※4しか保護対象になっていないことからすると、制度は十分に活用されていないようです。

しかし、昨今の海外での和食ブームにより、日本政府も、この制度から得るものは大きいと気付いたようです。それは、「ジャパン・ワイン(Japan Wine)」という呼称を、日本産ぶどうを原料に日本で醸造した製品に限定しようとする計画や、「日本酒 (Nihon-shu)」という呼称を、日本米と国産原料で造った酒のみに限定しようとする動きからも見てとることができます。

そして日本政府は2015年6月1日に、農産品全般を対象とする独自のGI制度を導入しました。まだ施行直後なので登録された農産品はありませんが、夕張メロン、神戸牛、鹿児島黒酢、市田柿などが候補に挙がっていると報道されています。

EUでは、GI登録された農産品、ワイン、蒸留酒は数千にも及び、これらは原産地呼称保護(Protected Designation of Origin=PDO)と地理的表示保護(Protected Geographical Indication=PGI)という2つのカテゴリーに分類されています。以下がそれぞれの認証マークです。

EUの原産地呼称保護(PDO、左)と地理的表示保護(PGI)のマーク © European Union, 2015

原産地呼称保護(PDO)は、原材料の原産地、生産、加工についてのルールが、地理的表示保護(PGI)に比べてより厳しいのですが、通常、その利点もより大きくなっています。欧州におけるPDOの著名な例はシャンパンです。日本の制度は、PGIに相当しますが、これにより例えば、当該地理的領域以外から調達された原材料を用いてもよいなど、やや柔軟性が認められることとなります。

日欧間では、農産品と定義される製品に違いがあるので、GIに含まれる製品カテゴリーも異なります。例えば、EUでは、ビールは農産品※5であり、従って、農産品GIとして保護することができますが、日本では、ビールは農産品と認識されていないので、農産品GI制度の中に含まれません。

EU内で保護されているGI名称は、公開されている登録簿またはデータベースから検索することができます。主なものとしては、農産品と食品に関する「DOOR(ドア)」、ワインに関する「E-BACCHUS(E-バッカス)」があります。なお、日本の新しいGI制度の下で登録されたGIは、農林水産省のウェブサイトに掲載されます。

日本の制度では、例えば、名称が一般的になってしまった際には、GI登録が取り消されることがあるとしています。欧州の観点からみると、GI名称が一般名称化する可能性があるということは、保護や実施の度合いが低いことを意味します。EUにおいて、GI保護は非常に厳しく行われ、いったん登録されたGIが取り消されるのはごくまれなケースで、生産者が名称の取り消しを要求した場合や、7年にわたりその製品が市場に出回っていない場合などに限られます。

日本の当局は、新しい日本のGI制度は、EUの制度を見本として作られたとしていますが、異なる点は多く、ここで述べたのはその一部にすぎません。

Q4. EUのGI保護は、輸入品にも適用されるのですか?

コーニシュ・クロッティドクリーム(Cornish Clotted Cream)は英国の南西部にあるコーンウォール地方特産の伝統的クリーム。原産地呼称保護(PDO)を取得している © Rodda’s Cornish Clotted Cream

原産国でGI登録され、EU域内に輸入される製品が、自動的にEUのGI保護を受けることはありません。しかし、EUは、第三国のGI製品を域内で保護することにも前向きで、2007年に、初めて「コロンビア・コーヒー」が登録されて以来、その数は順調に増え続けています。現時点では、日本のGI製品でEU域内で保護されているものはありませんが、それも近い将来、変わることでしょう。

EUのGI保護を受けるには、主に2つの方法があります。原産国ですでにGIとして保護されている場合には、その生産者は、自国の当局を通じて、あるいは、欧州委員会(農業・農村開発総局)に直接登録申請をすることができます。委員会の担当部局が、EU法規との整合性を確認するために、その申請書類と製品明細書を6カ月かけて審査します。その後、申請は通常3カ月にわたる異議申し立て期間を経なければなりません。一度認められれば、EUのGI登録簿に記載され、全EU加盟国で保護されます。

もう1つは、非EUのGIを二者間協定によって認め、保護するという方法です。EUが近年第三国と締結する二者間通商協定 には、GIについての規定が設けられており、相手側の領域におけるGIを、自分側の領域で保護する条件について相互に合意することになっています。協定によって直接保護する場合は、相手側のGI保護・管理制度が認証されるので、保護の迅速化や手順の効率化という意味で、多くの利点があります。

日本とEUは現在、自由貿易協定(FTA)を交渉中であり、これにはGIに関する規程も含まれますので、将来的には、日欧のGIの一部が、協定によってまとめて保護されることになると見込まれています。ただし、日本は自身の新制度で農産品GIを指定する必要があり、それには、まだしばらく時間がかかりそうです。

※1^ 1891年にポルトガル・リスボンにて作成され、1958年に締結された原産地名称の保護および国際登録に関する国際条約で、以降何度か修正されて今日に至る。現在28カ国が締結。英語名は”Lisbon Agreement for the Protection of Appellations of Origin and their International Registration”。

※2^ 「独自の」(of its own kind)を意味するラテン語。ここでは、商標法、消費者保護法などの延長で保護するのではなく、独自の、あるいは専用の法を用いることを意味している。

※3^ 正式名称は「ドーハ開発アジェンダ」。世界貿易機関(WTO)で行われている貿易障壁をとり除くことを目的とした多角的貿易交渉。2001年カタールのドーハにて開始、現在継続中。

※4^ 「壱岐」「球磨」「琉球」「薩摩」(以上、焼酎)、「白山」(清酒)および「山梨」(ワイン)の6種。

※5^ EUでは、ビールは、農産物を原材料として発酵させたアルコール飲料(発酵酒)であるという意味で農産品とされている。

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