日・EUのEPAが2019年2月1日に発効、SPAの暫定適用も開始

出典:首相官邸ホームページ

2019年2月1日は、日・EU間のEPAが発効し、世界のGDPの約3分の1を占める人口6億余りの巨大な自由貿易圏が形成される、記念すべき日となる。同時に一部適用が始まるSPAと合わせ、これら2つの協定が日本とEU双方にもたらす具体的メリットや、今後の二者間関係を概説する。

2019年2月1日は、日・EU関係の記念すべき日

2018年12月21日、欧州連合(EU)と日本は、日・EU経済連携協定(EPA)に関してそれぞれの批准手続きが完了したことを相互に通告した。これにより、EPAは2019年2月1日に発効し、日本とEUの関係は新たな段階に入る。また、日・EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)も、2018年12月21日に日本が自身の批准手続きが完了したことをEU側へ通告した。これを受け、SPAの大半の規定も2019年2月1日から適用となるが、正式な発効のためには、全EU加盟国の議会批准が必要だ。

なお、両協定の交渉は2013年春に開始され、2017年12月に妥結。協定への署名は2018年7月17日の日・EU首脳協議で行われた。

EPAの概要をまとめたビデオ
© European Union, 2019

貿易以外にも踏み込んだ未来志向の自由貿易協定

EPAは貿易関係に加え、人口6億3,500万と世界の国内総生産(GDP)の約3分の1を擁する巨大な自由貿易圏を実現すると同時に、日欧の広範な分野での協力を強化し、持続可能な開発への互いの責任を再確認するほか、気候変動に関するパリ協定の実施に責任を持って取り組むことを初めて明文化した自由貿易協定である。

この協定の「目玉」は、貿易と持続可能な開発についての包括的な1章を設けていること、労働、安全、環境保護、消費者保護などについて極めて高い基準を設定していること、持続可能な開発や気候変動対策においてEUと日本双方のコミットメントを強化していること、また公共サービスを十分に保護していることなどである。また現時点で、日本にモノを輸出するEU企業の78%が小規模事業者であることを考慮して、中小企業についての1章も設けられている。

データ保護に関しては、日本とEUが2018年7月17日に交渉を完了した「相互的十分性認定」が、EPAを補完することになる。この十分性認定の目的は、互いのデータ保護に関する制度を「同等」と認め、個人情報が日本とEUの間で安全に移転できるようにし、世界最大の安全なデータ移転領域を実現することだ。2019年1月23日には、日・EU双方が相互の「十分性認定」を決定し、同日から適用開始となった(関連プレスリリースはこちら)。

EPAが欧州ビジネスにもたらす具体的なメリット

EU側にとって、EPAはこれまで自動車などの対日輸出に対する規制によって長年生じていた多くの障壁を取り除くだけでなく、日本に輸出するEU企業が支払ってきた年間10億ユーロの関税の大半を撤廃することになる。またEUの主要農産品にとっては、消費者1億2,700万人の日本市場が開放され、その他の業界の日本への輸出機会をも増やす。

EUにとって、EPA発効により実現する主な内容は、以下のとおり。

  • ゴーダやチェダーなど多くのチーズへの関税(現行で30%近く)およびワインへの関税(現行で平均15%)が撤廃される。
  • 牛肉輸出の大幅な増加を可能にし、豚肉製品の輸出にも新たな機会を創出する。
  • 日本で選ばれた地理的表示(Geographical Indication=GI)製品をEUでも保護することを保障すると同時に、200以上のEUのGI製品や、欧州の高品質な伝統的名産食品を日本国内でも保護することが保障される。
  • 化粧品や化学製品、繊維、衣類など、EUが高い競争力を備えている分野の工業製品に課される関税が取り除かれる。
  • 日本が自動車に関する国際規格に準拠するようになり、その結果、EUから日本への自動車輸出が相当容易になる。
  • 日本のサービス市場、とりわけ金融、電子商取引、電気通信、運輸の各市場が開放される。
  • EU企業が日本の54大都市の公共調達市場に確実に参入し、経済的に重要度の高い鉄道事業の調達市場への障壁が取り除かれる。

© European Union, 2019 / Source: EC – Audiovisual Service

日本とEU双方が利する関係に

欧州委員会のセシリア・マルムストロム通商担当委員は2018年11月13日、ブリュッセルを訪れた日本の記者団に対し、「日・EUのEPAは、日本とEUが結び付いていること、ならびに、貿易とは相互利益をもたらす関係を築き、貿易協定は多国間枠組みの中に完璧に組み込めるのだということを全世界に対して強く発信するものだ。これは自由貿易、多国間主義、ルールに基づく貿易を擁護する、明確なシグナルになる」と力強く語った。

日・EUのEPAについて、欧州議会で記者会見を行うマルムストロム委員(2018年12月12日、ストラスブール)
© European Union 2018 – Source : EP / Michel CHRISTEN

また、日本側の便益についてもこう述べた。「確かに、EPAは欧州にとって多くの利益をもたらすが、日本の盟友に対しても同様だ。現在、日・EU間の貿易に課されている全関税の99%が、EPA発効と同時に撤廃されることになるので、日本からEUに輸出される酒類、緑茶、水産物などのほぼ全ての製品への関税は、発効と同時にほとんど取り除かれる」と述べた上で、「近い将来、それは完全撤廃となる。日本は自動車に課される10%の関税の撤廃に強い関心を持っていたが、これは8年かけて段階的に撤廃されることとなった。他方、和牛や日本酒といった高品質な食品や飲料に対する日本のGI製品はEUでも保護されることが約束された上、焼酎などの瓶のサイズ規格など、これまで対EU輸出の障壁となってきた規制が緩和されることとなった。また、ビジネス目的で日本から訪れる短期赴任者や出張者、その配偶者や子どもにも適用される規則が緩和される」と、EPA発効に伴う日本側のさまざまなメリットに関しても高く評価した。

より緊密に連携するためのSPA

EPAと共に重要で、EUと日本の間で締結された初めての二者間枠組み協定であるSPAの正式名称は、「Strategic Partnership Agreement between the European Union and its Member States, of the one part, and Japan, of the other part(日本国と欧州連合及び欧州連合構成国との間の戦略的パートナーシップ協定〈外務省訳〉)」。

SPAは、40以上もの共通の関心分野において、政治的・分野的協力や共同行動を促進する。それは人権、民主主義、多国間主義、法に基づいた秩序といった、日・EU間の連携の基礎を固める共通の価値や原則を再確認し、両者関係をより一層深め、外交・安全保障の政策対話や連結性、気候変動、環境、エネルギー、サイバー問題、雇用と社会問題、人的交流といった地球規模・地域的・二者間のさまざまな課題に対する関わりを強化していくものである。SPAの概要については、こちらをご覧いただきたい。

SPAの交渉終了を祝う河野外務大臣(左)とモゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長(2018年4月25日、ブリュッセル)
© European Union, 1995-2018

SPAの発効には、日本側の批准、ならびにEUと全EU加盟国による承認および批准が必要だが、EUは全加盟国の批准を待たずとも、特定の条文の適用を可能にするために必要な法的手続きを2018年6月に完了し、翌7月に日本側に通告していた。日本側は前述のとおり、2018年12月21日にEUに批准を通告。SPAは協定の規定にしたがって、かかる通告を行った日のいずれか遅い日の属する月の翌々月の1日、すなわち2019年2月1日に暫定的に適用が開始されることとなった。

 

【更新情報】 2019/01/25 十分性認定の2019年1月23日からの適用開始について追記

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