日本で広がるEUのネットワーク

1974年7月、駐日欧州連合(EU)代表部の前身となる駐日EC委員会代表部が東京に開設された。以来40年、日本国内ではさまざまな形態、分野のネットワークが日・EU関係の発展に寄与してきた。中でも、日本の地方都市とEUをつなぐEU協会、EUに関する調査研究を支援するEU情報センター、EUに関する学術拠点であるEUインスティテュート・イン・ジャパンといった団体・組織の活動、さらには欧州留学や招聘プログラムから広がる交流によって、個人レベルでもEUへの理解が深まっている。本稿では、こういった日本とEUの市民レベルの交流や学術交流を中心としたEUのネットワークの活動を紹介しよう。

日本各地で活動する14のEU協会

より市民生活に近い草の根的な活動を通して、EUの豊かな文化に触れたりEUへの理解を深めたりする機会を提供してくれるのがEU協会である。各地のEU協会は1980年代後半から次々に創設され、経済団体、国際交流団体などと連携しながらそれぞれが独自の成長を遂げてきた。その活動の一端を紹介する。

EUフィルムデーズのレセプション(2014年6月10日)

全国のEU協会の中でも、福岡EU協会は100名近い個人会員と70社以上の法人会員を擁する規模の大きい協会だ。駐日EU代表部から講師を招聘(しょうへい)した講演会や、県内で活動するEU加盟国の団体と共催する「福岡で楽しむEU」はいつも人気。(写真左)

EUフィルムデーズ(2014年6月24日)

岡山EU協会でも人気なのが文化イベント。2014年6月には3回目となる映画祭「EUフィルムデーズ2014 in 岡山」(写真右)を開催し、日頃は鑑賞の機会も少ないポルトガルとエストニアの近作を上映した。

プチ・フランス語講座(2014年5月31日)

佐賀県EU協会は、2014年5月~6月に「ヨーロッパウィークエンド in SAGA」を開催。プチ・フランス語講座(写真左)やヨーロッパのお菓子作りなどのユニークなイベントも好評を博している。

学生を中心に活発な意見が交わされたフォーラムの模様(2014年9月18日)

石川EU協会は定期的にEU研究会を開催しているほか、年1回EUフォーラムを主催している。2014年9月に主催したフォーラム(写真右)では、日欧の価値観の違いと共有について約150人の参加者が活発に意見を交換した。

ソラ行け旅フェスタ2014(2014年10月18、19日)

復興途上にある東北のEU協会も元気だ。宮城EU協会は、2014年10月の「ソラ行け旅フェスタ2014」(写真左)に出展して、EUについての広報活動を行った。また都道府県単位のEU協会が多い中、市レベルで運営されているのが会津EU協会である。設立当時から続く「ヨーロッパをよく知ろうセミナー」は、2015年2月に第25回の開催を迎える。

2014年7月には北海道EU協会が設立され、現在日本には14のEU協会がある。お住まいの地域のEU協会は、「EUMAG」の国内ネットワークで見つけることができる。

大学を拠点にしたアカデミックなEUネットワーク

EUについて詳細な専門情報が必要な人なら、世界500カ所にあるEU情報センター(EU i)や、世界100カ所の寄託図書館(DEP)にアクセスするのが近道である。日本国内でも北は北海道大学、南は琉球大学まで全19大学にEU iが設置され、国立国会図書館内にDEPが置かれている。

EU情報センターは日本国内19箇所を含め世界500カ所に設置 © European University Institute 2014

このEU iとDEPは、ルクセンブルクにある欧州委員会出版局が発行するEU官報、条約、年次報告書、月例報告書、統計資料などのEU公式資料や各政策分野に関する広報資料を所蔵しており、誰でも無料で利用できる(国立国会図書館の利用は18歳以上)。しかし、近年はEU関連の資料もデジタルで発行されることが増えたため、資料はほとんどEUのデータベースから得られるようになっている。データベースの検索方法は、各EU iに問い合わせれば助言が得られる。 EU iはまた、毎年5月の日・EU市民交流イベント「日・EUフレンドシップウィーク」の中で、一般市民を対象とした資料展やシンポジウムを開くなど、中心的な役割を果たしている。

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学術分野の交流推進ネットワーク「EUIJ」

EUの政治、法律、経済はもちろん、環境、医学などの科学技術関連分野でも、日・EUの学術協力およびアウトリーチ活動を推進しているのが、EUインスティテュート・イン・ジャパン(EUIJ)である。日本では2004年6月に第1号としてEUIJ東京(一橋大学・国際基督教大学・東京外国語大学・津田塾大学のコンソーシアム)が誕生。以来、EUIJ関西(2005年4月設立、神戸大学・関西学院大学・大阪大学)、EUスタディーズ・インスティテュート東京(2009年4月、一橋大学・津田塾大学・慶應義塾大学)、EUIJ早稲田(2009年4月、早稲田大学)およびEUIJ九州(2011年4月、九州大学・西南学院大学・福岡女子大学)が次々と設立された。

EUIJは、EU関連の大学コース、EU加盟諸国から招聘した教授陣による特別講義、奨学金制度、EU域内の大学との合同研究や学術交流などを実施しているほか、ビジネスマンや一般市民を対象としたアウトリーチ活動も行っている。近年では一橋大学で行われた死刑制度関連の資料展や早稲田大学における日・EU協力の未来像に関するパネルディスカッションが注目を集め、九州大学で開催された経済関連のシンポジウムでは外交官を含めた識者たちが欧州統合に関する意見を活発に交換した。またEUIJ早稲田では国会議員を対象にしたプログラムを、EUIJ関西では高校生を対象にしたプログラムを独自に実施するなど、その活動範囲を積極的に広げている。いくつかのEUIJはさらにフレンドシップウィークに積極的に参加している。大学を拠点としたEUのネットワークの活動の多くは一般市民にも門戸が開かれている。関心の高い人には、EUへの理解を通して広く世界の現状を見渡す好機になるだろう。

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EU招聘プログラムに参加したニューリーダーたちの集い

EUは、各国の若手リーダーたちを招聘(しょうへい)するEU短期招聘訪問プログラム(EUVP)を40年にわたって続けている。EUVPは、EU域外の国々の将来性ある若手リーダーを欧州に招き、個別のプログラムに参加してもらうことで、EUの目標や政策および人々について直接理解してもらう制度。米国国務省・教育文化局の国際ビジター·リーダーシップ·プログラム(IVLP)をモデルに欧州議会と欧州委員会が1974年に設立した。当初は米国市民のためのプログラムだったが、その後徐々に対象国を拡大(現在では80カ国以上)している。日本に門戸を開いてからは30年になり、1987年に渡欧した元衆議院議長の河野洋平氏をはじめ、若手の政治家、外交問題を専門とするジャーナリスト、EUおよび国際関係を専門とする学術関係者、非政府組織(NGO)やシンクタンク関係者など、世論形成や情報伝達に寄与する若手リーダーが毎年5~6名選出され、これまで約200人の日本人が参加してきた。 2014年11月27日、そのOB・OG会ともいうべき交流会が駐日EU代表部で催された。

EU短期招聘訪問プログラム(EUVP)にはこれまで約200人の日本人が参加してきた。交流会では、さまざまな分野で活躍しているEUVPのOB・OGと次期参加者が、経験を語り情報を交換した。(2014年11月27日、駐日EU代表部)

交流会の開会あいさつに立った佐藤邦明さん(写真左)は、文部科学省高等教育局の国際企画専門官。2014年にこのプログラムを経験したばかりだ。「世界の高等教育を牽引するEUで、28カ国の利害関係を調整して政策を立てるプロセスを学んできました。EUは日本にとって戦略的に重要なパートナー。教育はもちろん、政治、経済、文化など、多彩な方々と、EUVPの同窓として、またEUのファンとしてつながることができるこのような交流会は有意義です」。

また仙台市で政策企画に携わる天野元さん(写真右)は、2004年のプログラム参加者である。「仙台市がフィンランドと共同で高齢者福祉機器を開発していた時期に欧州を視察し、自治体の研究開発政策に活かしてきました。この交流会は、別々に渡欧した人たちと同窓会のようなつながりが保てる機会。私も幹事補佐のような立場で情報を交換しています」。

そして会場には、早大ビジネススクールの教員として、中小企業の研究のためにEUVPで渡欧した早稲田大学経営専門職大学院の平野雅章教授(写真右)も姿を見せた。「1972年学部の夏休みに初めて渡欧、7週間掛けて13カ国を訪れて、言語や文化の多様性のあまりの面白さにたちまち魅了されました。EUVPもヨーロッパの理解を増す上でとても役立ちました。当時は、2週間でブリュッセルに加えてストラスブール、ローマ、フィレンツェにも赴き、EU制度の多様性をあらためて認識しました。留学先が英国、サバティカル(使途に制限がない職務を離れた長期休暇)はフランスで、今でも自分の立ち位置を確認する時に無意識に欧州諸国と比較しているし、これからも、欧州関連の人脈を広げていきたいと思っています」。

日本とEUをつなぐ多彩なネットワークは、地方都市、行政、教育、ビジネスなどを舞台に、個人レベルで豊かに確立されている。

欧州留学を通じた若者たちの交流

留学環境に関する欧州各国担当者の説明を熱心に聞き入る学生ら(2014年11月14日、駐日EU代表部)

学問、文化、ビジネス。日本に住む個人が、欧州に関心を持つ理由はさまざまだ。とりわけ意欲ある若者に、理想的な欧州行きのチャンスを与えてくれるのが、国や地域ごとに用意された豊富な留学プログラムである。2014年11月14日、金曜日の午後5時。駐日EU代表部で開催されたイベント「ヨーロッパの魅力:留学、食べ物、文化」には210名が参加、会場は熱気に満ちあふれていた。来場者の多くは、欧州留学を希望する学生たちである。壇上ではEU6カ国の関係者たちが自国の留学環境を熱心に解説し、実際に欧州留学を終えた先輩たちも体験談を披露したほか、文部科学省から「トビタテ! 留学JAPAN」プロジェクトの説明もあった。

早稲田大学国際教養学部3年生の柳清香さん(写真左)は、オランダ・マーストリヒト大学での1年間の留学から帰ってきたばかり。欧州留学の経験を生き生きと語ってくれた。「ベルギーまで自転車で10分という異文化が身近な環境で、欧州を中心に世界各国から集まったクラスメートたちと議論を重ねました。欧州の中心という地の利も活かし、20カ国、50都市以上を旅した思い出が忘れられません。卒業後は、もう一度ヨーロッパで国際政治を学びたいと思っています」。

また現在は弁護士として活躍する高橋大祐さん(写真右)は、EUが提供する留学制度「エラスムス・ムンドゥス」のプログラムで欧州留学を経験した先輩の一人。2008年から1年間、欧州の3大学で学んだ経験を情熱的に紹介してくれた。「ハンブルク大学、ボローニャ大学、エクス=マルセイユ大学で1学期ずつ学んで、3つの学位が得られるという寛大なプログラムでした。20人のクラスメートが15カ国の出身者で構成されるという国際的な環境で、本物のコミュニケーションスキルが磨かれました。欧州の文化や歴史を間近に感じ、人間の幸福について真剣に考えるようになったことが、その後の人生にも大きな収穫となっています」。

会場では、欧州留学を希望する日本の学生たちはもちろん、柳さんや高橋さんのような留学経験者や、欧州から来日中の留学生たちが賑やかに交流し、自発的なコミュニティーを広げる格好の機会になっていた。

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