グローバルに展開する日欧産業協力センターの役割

© 日欧産業協力センター

欧州連合(EU)と日本の間で行われる貿易と投資の不均衡を是正し、両者の経済関係をより緊密にしていくことを目指して設立された日欧産業協力センターは、2017年に30周年を迎えた。今や日・EUの枠組みにとどまらず、グローバルな視野に立って協力関係を展開する、幅広い同センターの役割を紹介する。本記事は、日本側・EU側を代表する2人の同センター事務局長による共同寄稿である。

30年来の信頼を築いてきた日欧の産業協力関係

日欧産業協力センター(EU-Japan Centre for Industrial Cooperation)は、EUの欧州委員会(域内市場・産業・起業・中小企業総局)と日本政府(経済産業省)が、産業協力を担う中核的組織として共同で設立した、ユニークなベンチャー事業だ。

昨年、日欧産業協力センターは30周年を迎えた。1987年の設立以来、欧州委員会と経済産業省はこの先駆的な共同事業を展開し、豊富な経験を積み上げてきた。この間に当センターは、特に日本とEUの政治・経済の急速な変化や、グローバル化とグローバルバリューチェーン(世界規模の価値連鎖)を広めてきた。30年間にわたる協働によって築いてきた信頼は、たとえ目に見えなくとも、第三国、特に日本と交流する上で重要であり、また当センターが今後果たしていく役割をさらに強める土台となっている。

同時に、日欧産業協力センターは、日本とEUの政策を遂行するほか、経済情報を収集したり、双方の市場へのビジネスアクセスを促進させたりするなどの活動も行っている。当センターは、東京とブリュッセルにそれぞれ置かれている事務所を拠点に、日本と欧州の双方で活動している。

3つの分野で展開するセンターの共同事業

日欧産業協力センターは、以下の分野に注力している。

産業

企業パートナーシップ、クラスター間協力、学生企業研修(「ヴルカヌス・プログラム」)、公共調達ヘルプデスク、技術移転ヘルプデスク、イノベーション、エンタープライズ・ヨーロッパ・ネットワーク(EEN)、日本で展開されるEUの研究開発助成プログラム「ホライズン2020」コンタクトポイント、日・EUビジネス・ラウンドテーブル(BRT)などを通じて、産業とイノベーション分野での協力関係を推進する。

欧州製造業の管理職を対象とした研修プログラム「WCM(World Class Manufacturing)」で、愛知県にある研修センターを訪問する参加者
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貿易

日・EU経済連携協定(EPA)を最大限に活用し、推進する。欧州と日本の企業、特に中小企業は、この協定で創出されるビジネスの機会について必ずしも認識しているわけでなく、また第三国へ輸出する際に協定の条項や特恵税率から得られる便益についても、十分に把握していないケースが多い。そのため、これらの企業を対象に認識を促し、ガイダンスを行う。

投資

次の3点を促進し、投資協力を強化する。(1)EU企業による日本での投資、(2)日本企業による欧州での投資、(3)EUおよび日本企業による第三国での共同投資。第三国での投資では、例えばアフリカやASEAN(東南アジア諸国連合)の国々の市場へより良くアクセスできるようにし、協力関係を構築する。

多岐にわたって双方向に連携する日・EUの活動

日欧産業協力センターが行っている活動には、例えば次のようなものがある。

  • 当センターは、日本での「ホライズン2020」のナショナルコンタクトポイント(参加者支援の窓口)として、正式に登録されている。これによって当センターは、研究開発のためにホライズン2020へ応募する可能性のある、日本の研究者や行政官庁、企業を支援する。また、彼らにガイダンスを提供するためにも、ホライズン2020の認知度を高め、情報を広めて、提案を呼び掛けるなどの活動や研修を行っている。
  • 「日欧技術移転ヘルプデスク」の運営。このヘルプデスクは、EUおよび日本の企業や個人に対し、技術の探求や習得をはじめ、技術移転の構造理解をサポートするとともに、日本とEUの双方から、最新の技術に関する知識のギャップを埋めることを目指したサービスだ。EUおよび日本企業(研究開発やイノベーションに関わる部門)や大学、研究機関、クラスターなどが、この支援サービスで便益を受けられる。
  • 日本と欧州でクラスターの便益を提供するヘルプデスクを運営し、双方で対応する分野で、協働パートナー候補を探すためのサポートを行う。当センターでは毎年、EUのクラスターや中小企業メンバーの訪日ミッションを主催し、日本でのパートナー探しを支援している。バイオテクノロジーやナノテクノロジー、情報通信技術といったセクターが、ミッションの主なテーマ。産業とイノベーションのクラスターは、ビジネス、特に中小企業が国際進出するにあたって、非常に重要な役割を果たしている。

BioJapan 2017におけるバイオテクノロジー・ミッション共同ブース
©(株)JTBコミュニケーションデザイン

  • 例えば、衛星航法の利用で協力を促すなど、将来性のある連携において、先端技術セクターのパートナーシップ支援に注力している。当センターはこの分野で、「ホライズン2020」が資金助成するプロジェクトGNSS.asiaの、日本でのパートナーとなっている。これは、欧州とアジア太平洋地域の全地球衛星航法システム(GNSS)産業、特に下流セクター(アプリケーションと受信機)に注力した協調活動の促進を目指している。
  • 「ヴルカヌス・プログラム」は、日本とEUの理工系の学生が、互いの地で企業研修を行うプログラム。これは、幅広い先進技術やビジネス環境・実践法などを知るだけでなく、日本語または欧州の言語を習得し、また双方の文化を理解し尊重することを目的とした内容となっている。ヴルカヌス・プログラムは、当センターと日本・欧州の受け入れ企業からの資金協力で運営されている。毎年、EU側では約800~900人もの応募者の中から、非常に意欲の高い30~40人程度の参加者が選ばれ、4カ月間の日本語集中講座を受けた後に、日本の受け入れ企業で8カ月間の企業インターンシップを行う。

2017年にヴルカヌス・プログラムで来日した研修生
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  • 日・EU経済連携協定(EPA)は、物品貿易およびサービス貿易を促進し、EUの中小企業のために多くのビジネスチャンスを創出することが期待されている。発効すれば、EUから日本への輸出の90%以上に対して、関税が撤廃されることになる。当センターではEPAヘルプデスクを開設し、信頼性が高く、実用的な最新情報や助言を提供することで、中小企業がEPAから得られる便益を最大限に受けられるように図っていく予定だ。また、異なる産業セクターに応じて、簡潔なファクトシートの作成やオンラインセミナーの実施も予定されている。
  • 日本の公共調達は、2,200億ユーロと試算されている巨大市場だ。EPAには公共調達の側面も含まれているが、当センターが開設している公共調達ヘルプデスクでは、すでに便益がもたらされている。このヘルプデスクは、来日した欧州中小企業の日本での取り組みを支援しており、オンラインの問い合わせ対応サービスをはじめとして、「Ask the Expert(専門家による助言サービス)」、公共調達市場クイック分析サービス、供給者認証取得支援、メーリングリスト「週次入札ダイジェスト」、入札通知や関連ニュースを配信するツイッターなどの情報サービスのほか、分野ごとに専門家によるオンラインセミナーをたびたび開くなどの幅広いサービスを提供している。
  • 当センターは、日本と欧州の産業間の意思疎通促進を目指して1999年に立ち上がった、日・EUビジネス・ラウンドテーブルの開催事務局の役割を遂行している。このラウンドテーブルは、今期から三菱電機株式会社取締役会長の柵山正樹氏が日本側の共同議長を、ロールス・ロイス社ストラテジィックマーケティングディレクターのベン・ストーリー氏がEU側の共同議長を務めているほか、欧州と日本で幅広いセクターの産業界を代表する主要な企業から集結した約50人の経営幹部がメンバーとなっている。ラウンドテーブルは、日本と欧州の各政府当局へ共同提案書を提出し、イノベーションや気候変動、産業規格といった日欧が共通の関心を寄せる分野で産業協力を促し、日・EU間で貿易や投資を発展させることを主な目的としている。

今年5月16日、日・EUビジネス・ラウンドテーブルの日本側議長(当時)の佃和夫氏(三菱重工業株式会社相談役、写真左)とダニー・リスバーグ氏(欧州ビジネス協会会長、写真中央)が、共同提案書を安倍晋三首相に提出。リスバーグ氏は、前EU側議長のエリック・シュルツ氏(ロールス・ロイス民間航空部門社長)の代理として出席した
© 日欧産業協力センター

日欧産業協力センターの役割は、今では日・EU間の関係を超えたものになっている。保護主義が拡大し、地政学上の不安定感が強まるグローバル環境の中で、日本とEUが持続的な協力関係を保ち、開放市場がもたらす便益を守り、公平な立場を保証し、また回復力の高い経済と包摂的な社会を追求することに共に立ち向かっているという政治的なシグナルを、当センターは発信し続けている。

※ 本記事は、日欧産業協力センターの2人の事務局長(日本側:大隅正憲氏、EU側:フィリップ・ドゥ・タクシ・デュ・ポエ〈Philippe de Taxis du Poet〉氏)から共同で寄稿いただいた。