日・EU関係の深化に意欲を燃やす女性初の駐日EU大使

© European Union, 2018 / Photo: Keiichi Isozaki

2018年9月に来日し、11月22日の信任状捧呈式で正式に就任したパトリシア・フロア新駐日EU大使。長らく国連やドイツ外務省で活躍し、EUの中央アジア特別代表を務めるなど、数々の要職を歴任してきた。EPA・SPAの早期発効に向けて加速するEUと日本の連携や、日本を含むアジアとの連結性、EUの現状について、また前職の経験や女性ならではの視点から話を聞いた。

EUと日本の関係をさらに深めていくために

-来日から2カ月になりますが、さまざまな会議に参加され、地方にも行かれるなど、非常に精力的に活動されています。着任後の第一印象をお聞かせください。

とにかく、文化、伝統、美しい景色など、日本の素晴らしさに心を打たれています。富士山も見ましたし、京都の三十三間堂やその他のお寺も訪ねました。私にとって、日本はさまざまな色に彩られた国です。また、日本はいろいろな種類の音や声にも満ちています。東京は大都市なのに、小鳥のさえずりが聞こえます。また、踊りながらグループで叩く太鼓の演奏を聴いたのですが、迫力のある動きや掛け声と共に打ち出される音に圧倒されました。それに、人々の声――日本の人々が持つ異なる見方や考え方――に好感を持っています。私はまだ日本語がよく分かりませんが、その響きも面白く感じられます。

来日して2カ月のうちに、早くも日本の文化や景色に魅せられたというフロア大使
© European Union, 2018 / Photo: Keiichi Isozaki

-どのような理由から、駐日欧州連合(EU)大使になることを希望されたのでしょうか?

個人的には、これまで日本の外交官たちと非常に良好な関係を持てたこと、そしてさまざまな協議で日本を訪れた際に、ぜひこの国に住んで、もっと深く知りたいと思ったのがきっかけです。しかしそれ以上に、職業的見地から「日本とEUの政治的関係が重要な分岐点にある今こそ」という思いがありました。日・EUの経済連携協定(EPA)戦略的パートナーシップ協定(SPA)という2つの歴史的合意への署名により、両者の関係が新たな時代の幕開けを迎えました。今後、相互の関係はより質の高い、深いものになっていくでしょう。私は、EUと同じ考えを有する日本と協力して、現状では非常に難しくなっている、ルールに基づく国際秩序を守っていくことが非常に大事だと思ったのです。

-EUと日本は共に、EPAとSPAの早期発効に向けて内部手続きを進めています。EPAは関税の引き下げで輸入品価格が下がるといった恩恵を実感しやすい一方で、SPAは広範な領域での相互協力に関する拘束力を有する政治的枠組みであり、一般の人々にはなかなかわかりづらいかもしれません。具体的には、どのような取り組みが考えられるでしょうか?

確かにEPAによって、日本の消費者には、欧州産のワインやチーズなどをより手頃な価格で楽しんでいただけるようになります。しかしEPAにしても、実施していく上では、企業、とりわけ中小企業への情報提供のために日本、EUそしてEU加盟国がやらなければならないことが多々あります。一方、SPAはこれまで経済面での協力が中心だった日・EU関係において、新たに政治的・戦略的協力を強めるための枠組みです。双方にとって共通の関心のある分野はたくさんありますが、例えば気候変動への対応です。本年は、日本も欧州も気候変動に伴った自然災害に見舞われました。温室効果ガス抑制、環境汚染防止、パリ協定の実施においては、主要経済圏が力を合わせることが緊急に求められています。日本とEUは、海洋プラスチック汚染防止や循環経済の推進などでも、法制化や防止策について互いに学び合えると思います。

10月末に、鹿児島県の種子島で行われた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号(GOSAT-2)」の打ち上げを視察しましたが、私は宇宙も日・EUの協力領域だと思っています。つまり、国連での宇宙空間の平和利用に関する枠組みづくりでの連携です。またEUにも、全地球衛星測位システム「ガリレオ(GALILEO)」や地球観測システム「コペルニクス(COPERNICUS)」があり、EUと日本の間で衛星データの共有や共同研究を一層拡大できるし、それは非常に有益なことなのです。

「いぶき2号(GOSAT-2)」打ち上げを視察したフロア大使(2018年10月29日、鹿児島県・種子島)
大使のTwitterより(https://twitter.com/EUAmbJP/status/1056812167729700869)
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そして、平和と安全保障です。例えば、EUは北朝鮮に対して厳しい独自制裁を科していますが、制裁逃れやその弱体化に対する防止策について、EUは日本と共に模索できると思います。

世界から信頼されるパートナーであるEU

-第三国での日・EUの協力関係について伺いますが、「連結性(Connectivity)」という側面や、昨今の日・EUハイレベル産業・貿易・経済対話などから、どのようなことが考えられるでしょうか?

EUは、9月19日にアジアとの連結性を強化する戦略を採択し、日本でも地域的・世界的連結性を高めようとする「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」が提唱されています。この2つの戦略から、具体的なプロジェクトを特定することができるでしょう。ここで大切なのは、これらのプロジェクトが満たさなければならない要件です。持続可能であること、排他的でないこと、公正な競争にのっとって誰でも参加可能であること、また透明性が高く内容が明白であることなどが求められます。さらに、プロジェクトが実施される第三国を含めて、関係する全ての当事者にとって有益でなければなりません。

また、連結性の概念ですが、これは橋を架けて物理的につなぐことだけでなく、人と人との交流、能力構築、体制整備といった側面も含まれています。学生交流はその一例です。国や人、ビジネスを結び付けることが連結性の目的なので、可能性は実に多様ですし、日本とEUがリソースを出し合って、いろいろなプロジェクトを展開できれば良いと考えています。

また10月22日に東京で開催された第1回日・EUハイレベル産業・貿易・経済対話の機会に、欧州投資銀行(EIB)と国際協力銀行(JBIC)および日本貿易保険(NEXI)それぞれとの間で、協力に関する覚書が交わされました。第三国でのプロジェクトには資金が必要ですから、これらの金融機関の協力により、日本とEUとの共同投資が可能になります。

-現在EUは、英国の脱退、ポピュリズムやEU懐疑主義の広がりなど、内部でさまざまな困難に直面していると報道されています。一方、世界からは、EUは多国間主義の盟主と目されています。大使ご自身の「EU観」はどのようなものですか? またどのようにして、これらの困難を克服できるとお考えですか?

まず何よりも、私は欧州、EUそして欧州統合プロジェクトの心からの信奉者です。確かに、課題が多いことは否定できません。しかし私は歴史家として、よく過去を振り返ります。第二次世界大戦直後の欧州大陸は戦争で荒廃し、フランスとドイツは強く反目していました。つまり今以上に大変な状況だったのです。そのような中で、「これまでの関係を変えて、和解と協力に基づくパートナーシップを築こう」という歩み寄りの下、EUが生まれました。2012年には、この理念が評価されてEUはノーベル平和賞を受賞しました。

「課題が多いことは否定できないが、EUは危機や課題に直面した時にこそ統合が前進している」
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戦後70余年たった今でも、EUの意義や必要性に変わりはありません。そして、EUの歴史を振り返ると、危機や課題に直面した時にこそ、統合がより前進していることが分かります。ですから、今こそ共通通貨であるユーロや財政危機に備えたメカニズムの強化、移民や政治的不和を生じさせる課題への取り組み、加盟国間の協力関係改善などに力を入れるべきだと思います。

英国のEU脱退ですが、私としては本当に残念に思っています。でも、僅差とはいえ、国民投票で離脱票が過半数を超えたのですから、英国民の意思を尊重せざるを得ません。また、欧州の一員、隣人としての英国と、将来的にも良好な関係を築くことを望んでいます。さらに、英国の脱退を契機に、EU内での財政の仕組みや役割分担、また残る27加盟国の協力関係などを見直すことにもなるでしょう。それはある意味で、特定の問題を捉え直すチャンスでもあるのです。

なお、対外政策という点では、EUは良く足並みがそろっているのです。例を挙げれば、ウクライナ紛争後のロシアとの関係、米国が離脱を表明したイラン核合意、バルカン半島や東欧諸国との関係などです。また、英国のEU脱退に対しても、加盟27カ国は一致して対応しています。ですから、EU内部で激しい議論が行われているからといって、コンセンサスがないという意味ではありません。誤解しないでいただきたいのですが、EUは民主的に運営されているので異なる意見はありますし、議論が紛糾することもあります。しかし、討議の後に至った合意は、揺るぎのない堅固なものなのです。その意味で、日本を含む各国にとって、EUはとても信頼できるパートナーだといえるでしょう。

天皇陛下へ信任状を捧呈するために皇居へ向かうフロア大使(2018年11月22日、東京)
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EUと日本が共に何ができるかを積極的に提言していく

-前職で得られた経験や専門知識は、大使として日本で行う仕事に、これからどのように生かされるとお考えですか?

国連で得られた経験は、日本で行っている今の仕事と、非常に時事的に結び付いています。日本とEUはどちらも国連や世界貿易機関(WTO)などの多国間機関を支持しています。国連を中心としたシステム全体についても同様です。例えば、日本とEUは、国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)と共に難民支援に取り組んでいますし、災害救助や人道援助も行っています。国連総会で日本とEUが互いに協力し、共同提案しているプロジェクトや決議はたくさんあります。ですから、EUは日本とも国連のさまざまな活動分野において、非常に良い対話ができていると思います。もちろん今までの経験から、私はこういったことをよく把握していますので、例えば国連総会第一委員会で、軍縮や軍備管理について共に何ができるかを議論することはたやすいわけです。あるいは、宇宙に関することなども。ですので、さまざまな場で話し合う際に、国連での経験がとても役立ちます。

着任後初めての訪問先は京都。門川京都市長(写真右)や西脇京都府知事と相次いで会談し、日欧関係をはじめ、EPAやSPA、環境問題のほか、京都の味覚についても話した(2018年10月5日、京都)
大使のTwitterより(https://twitter.com/EUAmbJP/status/1048143739083001861)
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中央アジアでの経験に関して言えば、この地域はロシアと中国という2つの大国に挟まれていますので、共同で取り組めるプロジェクトの新たなパートナーを常に探してきたのです。EUと日本は、どちらも中央アジアにとってそのようなパートナーですので、先ほどの質問にあったように、このつながりをもって「この地域で共に何ができるか」と考えるのは、第三国で協力していくための追加要素となるでしょう。

女性参画のパイオニアとしてアドバイスできること

-女性として初めての駐日EU大使でいらっしゃいますが、これまでのさまざまな重要なポストの中で「女性初」はありましたか?

実は、ドイツ外務省の議会内閣担当課長職や国連担当総局長職、また中央アジア担当EU特別代表など、私の過去15年間のポストのほとんどが「女性初」でした。この経験から言えることは、「本当に仕事をする能力があるのか」と懐疑的な人たちが必ずいることです。例えば、EU特別代表として中央アジアに赴任した時には、「EUはなぜ女性を任命したのか理解できない。誰もあなたのことを受け入れませんよ」と現地の高官から言われました。しかしまず大切なことは、自分に対して自信を持つことです。女性というだけで評価が厳しいのは現実で、失敗は簡単には許されません。着実に仕事をこなし、強い意志を持ってより良い成果を出そうとすることが重要です。

もう一つ大事なことは、女性同士のネットワークづくりです。私は1990年代に国連の女性地位向上委員会の議長を務めましたが、当時から「組織の3割が女性になると、その組織のメンタリティーが変わる」という研究結果が出ていました。ですので、可能な限り女性を起用し、機会を与えることが大切です。このようなことを言うと「私は仕事ができるから、特別扱いは不要」と反発する若手の女性もいるのですが、私の数十年にわたるキャリアの経験から言わせていただくと、女性相互のサポートは本当に必要です。

フロア大使は、天皇陛下に信任状を捧呈したEU(その前身も含む)の大使としては8人目であり、初めての女性大使である
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-日本では、政府機関や民間企業の意思決定プロセスへの女性参画が、まだまだ少ないと指摘されています。日本の現状について、どのように思われますか?

確かに、日本では女性の進出がもっと望まれますね。女性の参画を増やすというのは、単なるきれいごとではなく、その組織にとって有益なことです。男女、さまざまな人種、多様な背景や経験を持つ人たちから成る指導層の方が、多種多様な知見を持ち寄ることができ、より良い成果を出すという研究結果もあります。それに、人口の半分を占める女性を十分に活用しないのは、社会にとって大きな損失です。

もちろん、女性進出を実現するための方策は、各国がそれぞれ工夫していくべきことだと思いますが、多くの国々で実践され、有効と認められているのはクオータ制です。例えば、ドイツではある政党が連邦議会議員候補者名簿の女性比率を、当初は3割、やがて4割にすると定めました。そのことが、連邦議会での女性議員進出の道を開いたのです。また、取締役や上層部の男女の各比率が3割以上でなければならないと法律で決めている国も幾つかあります。経験からすると、自主目標はあまり成果が上がりません。

女性進出を促進する上で重要なのが、ワークライフバランスを助ける環境です。日本も欧州諸国と同様に、高齢化という人口構成の変化から生じる問題に直面しています。政府としては、両親に働いてもらいたいけれど、子どもも育ててほしいということで、保育所の整備、育児休暇、フレックスタイムなどを進めているわけですが、ここでも制度を作るだけでなく、制度のフル活用を促すような奨励策も考えると良いと思います。例えば、片方の親が育児休暇を取るよりも、両方の親が取る場合の方が合計休暇日数が多くなるようにすると、育児休暇の取得率が上がります。もちろん、それには雇用主の協力も必要ですが。

数々の要職に「女性初」として就いた経験を踏まえて、女性やさまざまな背景を持った人材が集まることで、より良い組織ができると説く
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-大使ご自身は、どのようにワークライフバランスを取っていますか? 趣味、スポーツ、好きな食べ物などを教えてください。

私の場合は音楽が大切です。コンサートに行くのも楽しみですし、自分でも趣味でピアノを弾くのですが、一心にピアノを弾いていると、日頃の憂いや心配事が消えて、心が休まります。スポーツではスキーが好きですし、夫も私もハイキングが好きなので、そのうち日本アルプスや他の山々に登ったり、山中のお寺やお城を訪ねたりしたいと思います。

日本食は、私にとっては芸術品のようなものです。日本食ならではのとても繊細な味も、大変気に入っています。

-座右の銘やモットーはありますか?

今まで考えたことはないのですが、強いて言えば「やらなければならないことは、とにかくやってしまおう。大変なことはその分、やりがいも大きい」というのが、私の取り組み方から思いつく言葉です。

大使として多忙な合間にも、ワークライフバランスを大事にして、ピアノやスキーなど趣味を持つ
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-最後に、『EU MAG』の読者へのメッセージをお願いいたします。

日頃からEU MAGを愛読していただいている読者の皆様に心より感謝しつつ、これからも読んでいただきたいというのが私の願いです。私どもも、皆様に豊富な情報を提供し、面白い記事を引き続きお楽しみいただけるように、最善を尽くします。今後ともEU MAGをよろしくお願いいたします。

パトリシア・フロア駐日EU大使の公式Twitterアカウント
https://twitter.com/euambjp/ @EUAmbJP

プロフィール

パトリシア・フロア
Patricia FLOR

1961年ドイツ生まれ。ニアランゲン・ニュルンベルク大学卒業、修士号、博士号取得。ハーバード大学ケネディ行政学院で行政学修士号取得。ジャーナリストとして活動(1981年~1985年)後、学術研究を経て、1992年ドイツ外務省に入省。国連ドイツ政府代表部勤務(1996年~2000年)中には、国連女性の地位委員会議長を務める(1998年~2000年)。駐ジョージア・ドイツ大使(2006年~2010年)、ドイツ外務省東欧・コーカサス地域・中央アジア局長(2010年~2012年)、中央アジア担当EU特別代表(2012年~2014年)、ドイツ外務省国連・地球規模問題総局長(2014年~2015年)、ドイツ外務省国際秩序・国連・軍備管理総局長兼軍縮・軍備管理担当政府代表(2015年~2018年)などを歴任。2018年9月、駐日EU代表部代表および次期駐日EU大使として着任。2018年11月22日、天皇陛下に信任状を捧呈し、駐日EU特命全権大使に。