日・EUのさらなる連携に注力する政治部の新任外交官

© European Union, 2019 / Photo: Keiichi Isozaki

本年は、2月の「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」暫定適用開始、9月の「持続可能な連結性および質の高いインフラに関する日・EUパートナーシップ」署名など、日・EU間の協力関係強化につながる出来事が続いた。こうした数々の合意のフォローアップで要となるのが、駐日EU代表部の政治部だ。この夏から秋にかけて着任したホネカンプ部長、ヴァンハウト一等参事官、ポーラック参事官の三人に、新しい任務への思いや抱負を聞いた。

ローランド・ホネカンプ政治部部長:EUの役割について認知度を高めたい

2019 年7月に着任したホネカンプ政治部部長/一等参事官は、欧州連合(EU)の外交をつかさどり、各国のEU在外代表部を管轄する欧州対外行動庁(EEAS)で、これまでアジア太平洋や中央アジア諸国の担当を歴任し、モスクワの駐ロシア連邦EU代表部に勤務したこともある。「EEASは常々、知的刺激に満ちた場所だと思ってきました。社会の各方面から集まった有能な同僚と仕事ができ、世界規模の政策の形成に貢献できますから」と話す。

日本での勤務は初めてだが、日本関係の業務には携わっていた。2018年の初めに、日本とのパートナーシップに関わる機会に恵まれたのだ。「多大な努力を求められることもありましたが、興味は尽きることなく、本当に素晴らしい経験をしました」と振り返る。

その時の体験が、今回、東京でのポストに応募するきっかけとなったという。「東京に駐在し、日本の外務省などの関係機関で働く職員とより近くで仕事をできることは、素晴らしいと感じています」と話す。さらに「日本とEUは密接なパートナー。その点、私の外交官としての仕事はとてもやりやすいですね」と笑顔を見せる。

世界が急速に変化する中で、EUは平和と繁栄の地域であり続けている。「G7やG20などのプロセスにおいて、EUは常に重要な役割を果たしていますし、多国間主義や国連の強化は日本とEU共通の関心事でもあります」。そこで今後、ホネカンプ部長が注力していきたいのは、「国際政治の担い手としてのEUを、日本でもっと認知してもらうこと」だと語る。

SPAの関連会合や2020年の首脳協議は大きな節目に

連結性(コネクティビティ)と安全保障の分野は、日・EU間の重要課題として急速に進展しつつある。さらには「SPAに基づく閣僚級会合や、2020年に東京で開催される日・EU定期首脳協議の成功に貢献することは、私たちの仕事において大きな節目となるでしょう」とホネカンプ部長は力を込める。

ホネカンプ部長は、この夏に来日。日本は世界でも素晴らしい文明を持つ国の一つだと考えており、早々に訪れた日光の神社や太平洋の風景を目にして、忘れがたい印象を受けたと話す。夫婦そろって旅行が好きなので、3人の息子たちの希望とうまく調整しながら、「冬には家族全員でスキーに行くのが楽しみ」と話している。

アン・ヴァンハウト一等参事官:「連結性」が大きなテーマの一つに

本年9月に着任したヴァンハウト一等参事官は、かつて欧州委員会対外関係総局の司法・安全保障担当連絡官や、移民・難民および薬物問題担当調整官を務め、その後EEASに移ってからはアジア太平洋、中東、国際問題などの担当部署を回りながら、ブリュッセルでキャリアを積んできた。

東京での仕事を選んだ理由は、「SPAやEPA(経済連携協定)の締結で、日・EU関係はとても重要で興味深い段階に入っています。こうしたダイナミックな動きに引かれて、このポストに応募することを決めました」と話す。自身にとって初めての海外勤務については、「私のこれまでのキャリアや人生に、新しい一面を付け加えることになるでしょう」と期待をにじませる。

日本とEUは、本年9月に連結性に関する文書に署名。デジタル、輸送、エネルギー、人的交流などの分野で、西バルカンや東欧、中央アジア、アジア太平洋、アフリカといった地域で実務的な日・EU協力を推進しようとするものだ。これは、ヴァンハウト一等参事官が取り組む重要な任務の一つとなる。

「日本とEUは、価値や利害を共有しており、連携を強化することで世界に良い影響を与えることができるはず」と、ヴァンハウト一等参事官は強調する。連結性を高める上で、「今後、具体的にどのような成果を挙げられるか、そして双方がどのような役割を担えるかを示すことができたら」と話す。これまでさまざまなEU機関との調整や国際問題に携わってきた経験、そしてアジア太平洋や中東・アフリカ地域に関する専門性を生かして、「具体的で明確なパートナーシップの進展につなげていきたい」と抱負を語る。

EUの掲げる目標に共感

ヴァンハウト一等参事官は、EUの主要機関が集中するベルギーの出身だ。アントワープ大学で外交科学修士号を取得した後、欧州議会でインターンをしたのがEU機関で働くキャリアの始まりだった。「今でも私はEUが掲げる目標に共感し、これほど長い間、その任務を遂行できることをうれしく思っています」。

日本に赴任して早速、茶道を体験したという。「東京では、文化、ショッピング、スポーツを楽しむ機会が山ほどありますね。具体的には、歌舞伎鑑賞や東京交響楽団のコンサートに注目しています。東京以外の街や地方の田舎を訪れるのも楽しみです」と顔をほころばせる。

クレメン・ポーラック参事官:安全保障分野の専門家としてできること

ポーラック参事官は、スロヴェニアの外務省でキャリアをスタートし、長らく核不拡散・軍縮問題を担当してきた。在ウィーン国際機関スロヴェニア政府常駐代表部や同国外務省の国連部部長なども勤めた後、2012年に、核問題の政策顧問としてイラン核交渉のEUチームに加わり、交渉に全面的に関わった。その後、在ウィーン国際機関EU代表部で核合意関連コミットメントの実施状況の監視に従事。

より国際的な環境で、より大きな仕事をすることは、比較的小国のスロヴェニアの外交官としてのポーラック参事官の希望にかなっていた。また、2004年にEU加盟を果たした国の出身者としてEUに貢献したい、という思いもあった。

「EUは、各加盟国の異なったバックグラウンドを持つ人々が、私利私欲を追い求めることなく協力できることを示す、素晴らしい事例です。欧州の国境が高いフェンスで仕切られ、軍隊が国境を守っていた時代は、それほど昔のことではありません。それが今では、開かれた国境と、開かれた市場を持ち、学生はEU域内の好きな都市で学べる。EUがこれまで達成したことを考えると、とても誇らしい気持ちになります」

日本に息づく敬意や伝統に感銘

新たな職場として日本を選んだ理由は、「仕事がルーティンになると、問題の本質を見極める視点を見失ってしまうため、時には働く環境を変えることが重要だと考えたのです」と語る。また、日本にまつわる個人的な体験もあった。「2010年に初来日した折、欧州ではすでに消えつつあるような価値、敬意、伝統が日常の中に息づいていると感じました」。

それをさらに後押ししたのが、ウィーンへの赴任経験だった。当時、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)では、故・天野之弥氏が理事会議長・事務局長を務め、日本人の職員も勤務していた。彼らと共に仕事をする機会が多かったポーラック参事官は、日本人職員に対し非常に良い印象を抱いており、「たとえお互いの意見が合わない時があっても、諦めることなく前向きな対話ができました」と感慨深く振り返る。

ウィーンで知り合った日本人のうち、親しい友人となった一人とは再会を果たし、東京での生活を始めるにあたって大いにサポートしてもらったそうだ。夫婦共働きで小さな男の子がいるため、まだ新生活は落ち着いていないが、妻と共通の趣味であるハイキングや山登りを早く始めたい、と話してくれた。

プロフィール

ローランド・ホネカンプ Roland HONEKAMP
駐日EU代表部政治部 部長/一等参事官

英国オックスフォード大学ベリオール・カレッジ卒業。欧州対外行動庁アジア太平洋本部や中央アジア課のほか、2011年~2015年にモスクワの駐ロシア連邦EU代表部に勤務。経済・デジタル政策の立案なども担当した。ドイツ語、フランス語、英語に堪能。2019年7月より現職。

アン・ヴァンハウト Ann VANHOUT
駐日EU代表部政治部 一等参事官

ベルギーのゲント大学およびアントワープ大学卒業。政治・社会科学および外交科学修士号取得。欧州委員会の対外関係総局、司法・安全保障担当連絡官、移民・難民および薬物問題担当調整官を経て、欧州対外行動庁でアジア太平洋、中東、国際問題などを担当。オランダ語、フランス語、英語を話す。2019年9月より現職。

クレメン・ポーラック Klemen POLAK
駐日EU代表部政治部 参事官

スロヴェニアのリュブリャナ大学卒業。オーストリアのドナウ大学で国際関係の修士号取得。2001年、スロヴェニア外務省に入省。在ウィーン国際機関スロヴェニア政府駐在代表部(2004年~2010年)、スロヴェニア外務省国連部部長などを経て、2012年に核問題の政策顧問としてイランとの交渉プロセスを担当するEUのタスクフォースへ出向。包括的共同行動計画(JCPOA=イラン核合意)の発効後は、在ウィーン国際機関EU代表部に勤務。2019年10月より現職。

 

※本記事内の掲載写真:© European Union, 2019 / Photo: Keiichi Isozaki