伝統と品質の欧州ワイン ~EUのワイン法とワイン産業~

© Toru Shiomi
PART 2

グローバル化が進むワイン産業 – EUの課題と取り組み

欧州を代表する輸出品であるワインにもグローバル化の波は押し寄せている。PART 2ではワインの国際市場を概況するとともに、EUのワイン産業を取り巻く環境と、その課題への取り組みを紹介する。

グローバル化が進むワイン市場

ワイン用のブドウ栽培には、「日照」、「降雨」、「湿度」の3条件が揃う必要があり、ブドウが生育する100日間の日照時間が1,250〜1,500時間、年間降水量500〜800ミリメートル、年平均気温10〜20℃が理想とされている。欧州に限らず、これらの条件を満たす地理環境の国では古くからワインが生産されている。米国やオーストラリアでは独立前からすでにワイン生産が始まっており、ナパ・バレー(米)やハンター・バレー(豪)などの歴史的なワイン産地は世界的にも知名度は高い。またアルゼンチン、チリ、南アフリカなどもワイン生産が盛んな国の代表だ。これらの国々で生産されるワインは欧州で生産されるワインに対して「ニューワールドワイン」と呼ばれている。

かつてニューワールドワインのほとんどは生産国内で消費され、国際的に取引されるワインの大半は欧州のワインで占められていた。ところが、ブドウ栽培やワイン生産の技術の向上によって、近年ニューワールドワインの品質も高く評価されてきており、世界のワイン市場においてそのシェアを急速に拡大している。2011年の統計データによれば、ワインの輸出量ではイタリア、スペイン、フランスの欧州勢が上位を独占し、輸入量ではドイツ、英国、米国が上位3カ国となっている。このうち英国とドイツの輸入に関しては欧州内では比較的冷涼な地域にあり生産量が少ないため、消費量を賄うためには輸入に頼らざるをえないことが主な要因だ。また英国の場合はワインの一大生産地であるフランスのボルドーをかつて統治下に置いていたという歴史的な背景もある。

2011年の世界の主要ワイン生産・消費国のデータ

( ha:ヘクタール、Kl:キロリットル、l:リットル )

ブドウ栽培面積 / 1,000 ha ワイン生産量 / 1,000 kl ワイン輸出量 / 1,000 kl ワイン輸入量 / 1,000 kl ワイン消費量 / 1,000 kl 1人当たり年間消費量 / l
フランス 806 5,076 1,472 647 2,932 46.4
イタリア 776 4,277 2,324 241 2,305 37.9
ドイツ 102 913 414 1,613 1,971 24
スペイン 1,032 3,340 2,243 70 989 21.3
ポルトガル 240 561 308 158 469 43.8
英国 1 3 88 1,330 1,286 20.5
ハンガリー 65 275 67 54 212 21.3
ルーマニア 204 406 10 91 352 16.4
ロシア 63 698 6 511 1,128 7.9
米国 407 1,919 421 1,016 2,843 9.1
アルゼンチン 218 1,547 312 7 981 24.1
チリ 200 1,046 625 1 301 17.4
南アフリカ 131 973 357 17 353 7
オーストラリア 170 1,118 701 75 527 23.3
ニュージーランド 37 235 155 28 94 2.1
中国 560 1,320 19 365 1,634 1.2
日本 19 79 0 208 287 2.3
世界合計 7,517 26,743 10,295 9,807 24,434

OIV Vine and Wine Outlook 2010 – 2011 のデータを元に作成

世界全体のワイン消費量に対する貿易取引量の割合を見てみると、1986年から1990年にかけては年平均18.2%に過ぎなかったのが、90年代に入り急拡大し、2007年には36.2%まで膨らんでいる。輸送技術の発達や生産性の向上により、ワイン消費国において輸入ワインが手軽に手に入るようになってきたのだ。国際的な取引量の大部分はイタリア、スペイン、フランスの上位3カ国によって占められているが、コストパフォーマンスの高いニューワールドワインの伸びも著しく、その競争はますます激しさを増してきている。またワインの一大消費国として存在感を示している中国では、自国内でのワイン生産量も拡大してきている。中国で生産されるワインのほとんどは現在のところ自国内で消費されているが、これらのワインの一部が今後輸出される可能性もある。

国際基準となる国際ブドウ・ワイン機構

ワイン市場のグローバル化が進むにつれ、各国間で適正な貿易を行うための国際的な取引ルールやワインの品質に対する国際基準の整備がますます重要性を増している。この役割を果たしているのが、パリに拠点をおく国際ブドウ・ワイン機構(OIV:Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)だ。OIVではブドウ品種の同定や保護といった科学的な分野での活動とともに、ブドウ栽培方法やワインの醸造法、生産されるワインの定義、ラベル表記などに関する国際基準を加盟国間で審議し、決定している。1924年の設立当初はワインだけを対象としていたが、1958年に現在の名称に改称し、ワインを原料とする飲み物やブドウを原料とする産品もその対象に含むようになった。

現在のOIV加盟国は46カ国で世界の主要生産国が加盟しているものの、消費量の多い米国と中国は加盟していない。また日本はかつてオブザーバーとして参加していた時期はあるが未加盟である。OIVの基準はワイン生産と取引におけるグローバルスタンダードになっており、EUワイン法でも多くの内容を同基準に依拠している。例えば、ワイン醸造方法についても参照しているほか、OIVや国際植物遺伝資源委員会などの国際機関で登録されたブドウ品種でなければ、EU域内で販売されるワインラベルに表示できないと定めている。

EUワイン法はEUに輸入されるワインにも適用され、日本から輸出されるワインも例外ではない。OIVに加盟しておらず、ワイン法に該当する法整備が遅れている日本では、近年まで日本固有のブドウ品種がOIVなどの国際機関に登録されていなかったため、EUに輸出するワインのラベルに「甲州」や「マスカット・ベリーA」などのブドウ品種名を記載することができなかった。しかし、ようやく2010年に日本の固有ブドウ品種としては初めて「甲州」がOIVに登録され、EUに輸出されるワインに「KOSHU」と表示されるようになった。

OIVに加盟する46カ国を示す世界地図

注:赤が加盟国、ピンクがオブザーバー(現在中国のみ) © International Organisation of Vine and Wine

EU域内のワイン産業の現状

2009年から2014年にかけてまとめられた統計によると、EU全体では世界の生産量の65%にあたる年間約1億6,700万ヘクトリットル(1ヘクトリットル=100リットル)のワインが生産されている。また世界全体の57%のワイン消費量と70%の輸出量を占めており、名実共にEUが世界のワイン産業の牽引役であることは間違いない。世界規模でのワイン消費量は右肩上がりの傾向にあり、EU域外への輸出も同様に順調に推移している。

EU加盟28カ国のワイン輸出入状況

*瓶詰めされていないワインのこと。                          © European Union 2015

一方、ワインの伝統を誇るフランス、イタリア、スペインといった国々では、ライフスタイルの変化や嗜好の多様化を受け、ワイン消費量は減少し続けている。これまで食卓で日常的に飲まれていたテーブルワインの消費が減り、特別な日に飲まれる嗜好品へとワインの位置付けが変わってきていることが主因だ。EU域内で生産されるワインの実に75%は域内で消費されているため、EUのワイン産業に与える影響は極めて大きい。またEU域外への輸出に目を向けると、2009年から2014年にかけて米国、中国、日本の消費量が高い伸びを示しているが、それに対するEUからの輸出量の伸びは鈍く、EU以外のワイン生産国にシェアを奪われている状況だ。EUのワイン産業は域内の消費減と新興ワイン生産国との厳しい競争という二重の課題を突きつけられている。

挑戦が続くEUのワイン改革

EUのワイン産業を取り囲む課題は、近年に始まったことではない。1962年に「ワイン部門の共通市場制度(CMO)」が誕生した時から、他の農産物部門が供給量の安定確保を進める中、ワイン部門が取り組んだ課題は、過剰で品質の劣るテーブルワインの生産量の調整であった。以降、EUではブドウ樹の引き抜きや植樹の制限、醸造したワインの工業用アルコールへの転換といった生産量の抑制政策を継続的に進めてきた。2008年には国際市場での競争力を高めるため、それまでの生産調整制度を段階的に廃止する代わりに、優良なワイン生産者のプロモーションなどに活用できる補助金を各国に支給するという、EUワイン政策の大転換がなされた。

マドリッドで開催された第4回農業協力会議への参加にあたり、スペインのテジェリナ農業食糧環境担当相とワイナリーを視察するホーガン農業・農村開発担当欧州委員(2015年6月11日、スペイン・バリャドリッド) © European Union 2015

そして2013年に合意された共通農業政策改革を受けて、本年4月にワイン生産に関する新たなルールが発表され、2016年以降、EU加盟国それぞれに、新規のブドウ園開設が面積比で年間1%まで認められることとなった。欧州委員会のフィル・ホーガン委員(農業・農村開発担当)はこの発表に際して「今回の新たな基準は従来の生産抑制政策から段階的に生産拡大政策に移行し、増加傾向にある世界のワイン需要に対応するものである」と述べ、EUワインの世界マーケットにおけるシェアの低下に歯止めをかける新たな指針と位置付けている。世界規模でのワイン消費量は2025年までは増加傾向にあると予測されている。EUのワイン産業は、伝統と革新を武器にグローバル化するマーケットへの飽くなき挑戦を続ける。

ワインのラベル表示の読み方

ワインのラベル表示はEUワイン法に準拠した国内法によって定められており、国ごとにさまざまな記載様式が存在する。ここではフランス・ワインのラベルを参考に、EUワイン法によってラベル表示が義務づけられている記載事項を紹介する。

  1. ブドウ生産物の種類(ただし、原産地呼称保護〈PDO〉ワインと地理的表示保護〈PGI〉ワインは省略可)
  2. PDOまたはPGIの表示、および当該名称の記載(該当ワインのみ―PDO、PGIについてはPart 1参照)
  3. アルコール濃度
  4. 原産国
  5. 瓶詰め元・生産者などの表示
  6. 輸入元表示(EU域外から輸入した際の域内輸入事業者の名称。ただし、記載は同一面でなくともよい)
  7. 発泡性ワインなどの糖分含有指標(ただし、記載は同一面でなくともよい)

フランス・ローヌ地方で生産された
地理的表示保護付きワインのラベルの一例
(EUのワイン法で義務化されている記載は該当項目の番号を併記)

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参考文献

蛯原健介『はじめてのワイン法』虹有社、2014

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