欧州航空部門のさらなる成長目指す新航空戦略

© European Union, 1995-2016
PART 2

新戦略が目指す欧州航空部門の未来の姿とは

新しい航空戦略は、欧州委員会の2015年業務計画にも盛り込まれた取り組みの一つ。パート2では、新戦略における4つの優先事項を解説するとともに、航空戦略採択後に交渉開始が決定した日本とEUの「航空安全に関する相互承認協定(BASA)」についても紹介する。

新航空戦略の4つの優先事項

1) 国際航空分野でEUが中心的な役割を果たし、公平な競争の場を確保
2) 空域や空港等の効率化などによる容量拡大
3) EUの世界最高基準の維持
4) イノベーションと投資の促進

ここからは、それぞれの優先事項を解説する。

1) 単一航空市場推進――第三国との航空協定を積極的に締結し、公正な競争の場を確保しつつ、EUを国際航空の先導的地位に置く

EUの航空部門は、新たな成長市場に進出できなければならない。それは世界の主要国・地域との対外航空協定を通して達成可能だ。市場アクセスを改善するだけでなく、欧州企業に新たなビジネス機会を提供し、明快な規制枠組みを基にした公正で透明な市場条件を担保する。

こういった協定はまた、さらなる接続と乗客により低い運賃をもたらす。世界的な接続性は貿易と観光の推進力であり、経済成長と雇用創出に直接貢献する。

EUを単一の航空圏としたオープンスカイ判決

EU全体を単一の市場にするEUの政策は、航空市場にもあてはめられる。欧州司法裁判所(現・EU司法裁判所)は2002年に、既存の加盟国と第三国との間での二国間航空協定は、国籍制限を設けていることからEU法に反する(「オープンスカイ判決」とも呼ばれる)と判断。

判決は、国際航空サービス規制分野における、EUと加盟国の間の権限の分担を明確にした。従来、国際航空サービスは二国間協定が規定していたが、この判決により、EUは対外航空サービスにおいて単独で権限を有すようになり、新たな重要な主体となった。

欧州委員会はこれを受けてEU域外へのフライトを運行するEU域内の航空会社全てを「EU 国籍」扱いとして対等な立場に置いた。以降、欧州委員会と加盟国の緊密な協力と調整の下、EUと多くの国との対外航空協定が結ばれ、現在では120以上の国がEUを単一の航空圏と認識し、EU法に則った協定が1,000件以上結ばれている。

EUの第三国との航空協定の締結状況

しかし、まだ課題は多く残る。未だにEUの航空会社は、第三国への乗り入れやEU外の投資へのアクセス、完全に統合されたグローバルな航空会社グループの形成などに関するさまざまな障害にその発展を妨げられている。新たな戦略における対外航空政策は、この障害の克服を支援することになる。

包括的なEUの航空協定は、第三国との共通のルールと高い基準に基づいた航空関係の強化を通して、成長のための近代的な枠組みを提供する。EUは既にそのような協定を米国やカナダと締結しており、ブラジルとは現在交渉中である。新たなEUの航空戦略により、欧州委員会はさらに、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、トルコ、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、オマーン、メキシコおよびアルメニアとEUレベルの包括的航空協定を交渉する承認を求める意向だ。また、中国や日本などの航空関連製品製造における重要な国々と二者間の航空安全協定(下の囲み参照)を交渉することと、インドなどの重要なパートナーと航空対話を開始することを、勧告している。

交渉始まる日・EU間の航空安全に関する相互承認協定(航空安全協定:BASA)

5月にブリュッセルでもたれた日・EU首脳会談で、BASAの交渉開始が決まった。この協定が締結されると、空の安全性の向上、日欧双方の航空当局および事業者の負担軽減、貿易促進につながることになる。

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BASA(Bilateral Aviation Safety Agreement)は、航空安全に関して、相手国が行う安全性にかかる検査・認証などの相互受け入れ、相手国と協力した安全監督の実施によって、当局による重複検査を可能な限り避けるなど、効率的な安全監督を可能とする二者間協定。EUはこれまで米国、ブラジル、カナダとBASAを締結している。

現状、日・EU間はBASAが締結されていないために、航空機の運行者が滞空証明(その航空機が安全性および環境保全において技術的基準を満たしていることの証明。これなしに飛行することはできない)を得ることや、該当機材の整備が所在国に縛られており、耐空性検査や整備施設の監督が重複して行われる結果となっている。協定が締結されれば、証明の相互受け入れや監督の相互協力が可能になり、効率化できるほか、日本製航空製品の欧州への輸出や、欧州の航空製品の日本導入促進にもつながることになる。

ブルツ運輸担当欧州委員は、「2016年は『昨年発表した新しい航空戦略を実行に移す年だ』と1月に話したばかりなので、このように早く進み出したのはうれしい。(BASAが締結されれば)欧州企業に新しいビジネス機会を提供することになる」と話している。

※2020年6月22日、日本とEUは「航空の安全に関する相互承認協定(BASA)」に署名。詳細はこちら

2) 単一欧州空域構築――空中と陸上両方での成長阻害要因に対処する

航空部門が成長を続けるための最大の課題は、輸送能力、効率性、接続性への制約だ。欧州空域がまだ完全に一つにならず分断されていることで、これらの制約から、年間少なくとも50億ユーロのコストと、最大5,000万トンのCO2排出が生じている。さらに、EU域内空港の容量不足という現状が変わらなければ、2035年までに81万8,000人分もの雇用機会が失われることになるかもしれない。

EUは2004年に単一欧州空域(Single European Sky=SES)プロジェクトを開始、航空交通のパターンに沿った欧州空域の改編とともに、技術および手続きに関するルールの調和と欧州全体に統一した航空交通管理(ATM)システムを構築することを目指してきた。このSESプロジェクトをさらに推し進め、将来の空輸需要に対するプラン作りと、空港の混雑の解消に取り組まなくてはならない。

欧州の空港の混雑度合い

単一欧州空域のメリット

3) EUの世界最高基準の維持

安全、保安、乗客の権利および環境基準のどの面でも高い基準と品質を追求し、そのレベルを維持することも重要な点になる。例えば、航空交通量が増加する中で、高い安全性を保てるようEUの航空安全規則を刷新することや、テロリズムの脅威が依然続く中、空港での保安検査の手間と時間や費用を減らすために新技術を導入したり、リスク度との兼ね合いを考慮したアプローチを取ったりすること、などだ。

乗客・航空会社にとってのプラス効果

4) イノベーションと投資の促進

航空機の存在なしには航空分野は成り立たない。欧州の先進技術部門のトップ5にある航空機産業が、強い競争力を保つことの重要性は高い。イノベーションはその中心的な役割を持ち、環境対策、安全性の向上や運用コストの削減につながる新技術開発の努力はすでに幅広くなされている。

例えば、「クリーンスカイ2」プロジェクトは、官民パートナーシップによる、よりクリーンな製造工程や素材の開発を目指す。既存の航空安全規則では対応できない小型無人機「ドローン」の扱いについても、この新しい技術を安全に用いながら、ドローンの潜在能力を引き出すことを可能にする。

さらに、進化を続ける情報通信技術(ICT)を駆使し、サービスの向上を図ることも重要だ。EUは2020年まで毎年4億3,000万ユーロを「単一欧州空域航空管制研究プロジェクト(SESAR)」に投資し、10倍の安全性、環境への負荷の10%軽減、航空管制コストの半減、航空輸送能力の3倍アップを目指す。これは30万人以上の新規雇用につながる可能性がある。

 

【更新情報】

2020/06/22 日本とEU間の「航空の安全に関する相互承認協定」の署名に関する情報を追加