2012.6.12

FEATURE

世界に安定をもたらすEUの開発政策

世界に安定をもたらすEUの開発政策
PART 2

対話から始まる日本との援助協調

限られた予算でより効果的な開発援助を実施する上で注目されているのが、支援国同士で調整を図る援助協調だ。日本とEUではどのような援助協調が進められているのだろうか。日本の政府開発援助(ODA)実施機関である国際協力機構(JICA)企画部国際援助協調企画室で、欧州を担当する渋谷有紀主任調査役に日・EU間の協力の可能性について語ってもらった。

援助の潮流をつくるEU

JICAは今まさに、EUとの連携強化に向けて努力しているところです。EUのODA実績は加盟国からの供与分を含めれば、世界全体の5割以上を超えていますし、加盟国27カ国の声を一つにまとめ、発信するメッセージにはとても強い影響力があります。EUの援助の潮流を作る力、優先事項を決めるアジェンダセッティングの力に注目し、EUの動向を把握することは、JICAの事業戦略上大変重要です。

国際協力の構図は、今変わりつつあります。中国、インド、ブラジルのほか、アジア・中南米の新興国が援助額を増やしており、一方で欧州や日本といった先進国では経済が低迷し、援助予算に国民の厳しい目が向けられています。そのような中で、限りある予算を効果的に使うことは先進国の命題となっており、付加価値のある援助をより効率的に行うための支援国間での対話が重要となっています。

JICAとEUとの関係は、2008年5月のTICAD IV(第4回アフリカ開発会議)の際のルイ・ミッシェル欧州委員会開発担当委員と緒方貞子JICA理事長(ともに当時)の対談をきっかけに、特にアフリカ支援を主な議題として対話が進められてきました。本年は、7月にアフガニスタンに関する東京会合が開催されるほか、10月にはIMF・世銀総会が開催されます。このような国際会議の機会を活用し、両機関間でのハイレベル対談、意見交換を行っていければと考えています。

第5回アフリカ開発会議(TICAD) が開催される2013年を前に、アフリカ支援の議論が深まりそうだ。写真は第4回TICAD(2008年5月28日、横浜) ©Getty Images

また、JICAは本年7月からブリュッセルにシニアレベルの職員を派遣する予定です。EU諸機関の本部が集まるブリュッセルは、多くの援助機関が事務所を持ち、開発援助に関する対話や議論が行われ、開発援助の潮流形成の観点ではワシントン、パリ、ロンドン等に並ぶ街ですが、これまでJICAの職員は派遣されていませんでした。今後はブリュッセルを拠点にEUや欧州の政界、民間セクター等の有力者との強固なネットワークがあり、欧州の政策決定プロセスに影響力を発揮しているFriends of EuropeというシンクタンクにJICA職員が出向することにより、JICAのブリュッセルにおけるフォーカルポイントとして、EUをはじめとする現地の開発援助コミュニティとの対話を強化していく方針です。

まずは対話を重ねることから

援助協調といっても、その形はさまざまです。例えば特定のセクターに関する受益国政府との政策対話を複数の支援国で協力して行っていくようなケースもあれば、特定の公共事業を複数の支援国で分担して支援する「協調融資」のようなものもあります。そうした具体的な連携事例となるまでには時間がかかることも多く、それぞれの重点分野や事業戦略の方向性が一致するかどうか、繰り返し対話を重ねて相互理解を醸成し、連携の可能性を探っていきます。

援助を供与する方式(モダリティ)、援助予算年度や財政枠組み、支援の対象分野が似ていると、協調しやすい面はあります。例えば、ドイツと日本はともに水分野が支援の重点分野であるため、パイロット事業を通じて形成されたサービスデリバリーのモデルや過去の開発事業の調査結果を相互に利用したり、役割を分担して地域の上下水道施設整備に貢献するなどの連携協力を行ったりしています。大切なのは、現場の事務所間で対話を行い、現場のニーズとともに他支援国の事業や戦略の動向を把握し、受益国政府および支援国側にとってwin-win-winの関係が構築できる部分を特定することです。

JICAとEUの事業レベルでの協調体制は、これから強化していく段階です。EUは現在2014~2020年の多年次財政枠組みの策定過程にあり、向こう7年間の支援プログラムを形成していく段階にあると承知していますので、EUとJICAが相互の援助戦略、重点分野や事業の展開計画等について情報を交換し、連携の可能性を協議、検討するには最適なタイミングと言えます。JICAの取り組みについてよりよく知ってもらうことも含め、対話を強化していきたいと考えています。

ポテンシャルがあるのはアフリカやミャンマー

EUが事務所を開設したミャンマーでも、EUと日本の協調が期待される。テープカットをする(左から)アウン・サン・スー・チー氏、アシュトン上級代表、ウ・ミィン・スェヤンゴン地域主席大臣(2012年4月28日、ネピドー)©European Union, 2012

連携の可能性が期待できるのはアフリカへの支援です。EUがこれまでアフリカに投入してきた支援額は大きく、経験も豊かです。アフリカのインフラ整備、特に地域統合を念頭においた回廊(※2)等の運輸交通インフラ整備、農業やエネルギー分野、2011年に独立した南スーダン等を含む脆弱国支援は、共通の関心事項でもあり、連携に向けて情報交換や対話ができるでしょう。また、2013年は第5回アフリカ開発会議(TICAD V、於:横浜)の開催やEU側では第4回EU・アフリカ・サミット(於:ブリュッセル)が予定されており、アフリカ支援が日本とEUにとって重要な政策課題のひとつとなるモメンタムがあり、議論を深めるまたとない機会であるといえます。

その他の地域ですが、アフガニスタンは、いまだに治安が悪く、リスクを勘案しながら援助を進める必要があり、今すぐ事業実施面で協調するのは難しいかもしれませんが、7月の東京会合では、参加国間で協力の可能性が模索されることでしょう。民政化が進むミャンマーに、EUは本年4月に事務所を開設しましたが、JICAはここに10年以上の基盤と、人道分野を中心とした支援の実績があり、今後、対話をしていく土壌があるといえます。

援助協調を行う意義

対話を重ね、協力して効果的な支援を行うことは、支援国や援助機関同士だけでなく、受益国政府との信頼醸成につながりますし、国民によって支えられる限られた公的資金の付加価値を高めることにもなります。互いの政策や方向性を理解し合うことで、それぞれの強みを活かした効果的な援助を実施できるよう、今後より一層EUと対話を継続、強化していきたいと考えています。

(※2)^ 国境をまたぐ道路、橋、周辺地域の港湾、鉄道、越境手続き円滑化のためのインフラ整備等を通じて、地域全体の経済活動を促進する回廊構想

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