2016/05/31

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PART 1

交渉の背景とTTIPが目指すもの

欧州連合(EU)と米国の間では、現在、「環大西洋貿易・投資パートナーシップ(Transatlantic Trade and Investment Partnership=TTIP、ティーティップとも呼ばれる)」協定の交渉が急ピッチで進んでいる。日・EU間の自由貿易協定(FTA/経済連携協定〈EPA〉)や環太平洋パートナーシップ(TPP)協定と並び、日米欧の三極がそれぞれ締結を目指す3つのメガ自由貿易協定の一つとも表されているTTIPは、貿易、投資、雇用を増やすため、EU・米間で非関税障壁の削減や規制の改善などを目指すもの。年内合意を視野に入れるTTIPについて、パート1では、交渉の背景とその概要を紹介する。

世界一の経済関係のさらなる強化を目指す

近年、中国や新興勢力の成長が目覚ましい世界経済。しかし、EUと米国がこれを牽引するトップパートナーであることは今も揺るぎない事実だ。EUと米国を合わせた経済規模は、世界の国内総生産(GDP)の45.9%を占めている。

世界全体に占める主要国の国内総生産(GDP)の割合

(2013年)

出典:”Statistics Explained” Share of world GDP (Eurostat) 

貿易額から双方の関係を見てみると、EUの2015年の対米貿易額(物品)は6,190億ユーロ。EUの貿易総額に占める割合は18%に上り、最大の貿易相手国になっている。EUからは1,230億ユーロの輸出超過となっているが、EUの企業は米国に対し35億ユーロもの関税を支払っている。EUがTTIPによって実現しようとしているのは、EU企業の米国市場へのアクセスを良くし、輸出手続きを簡素化し、輸出入や投資を公平で容易にするための新たな枠組みを作ることだ。

2002年から2015年までのEUの貿易相手上位国の推移

(貿易額に占める各国割合)

出典:International trade in goods in 2015(Eurostat)

世界経済に重要な位置を占めるEUと米国は、人権擁護、環境保護、情報開示など多くの点で価値を共有する。TTIPが締結されれば、こういった価値を推進していく上で国際社会全体に働きかけやすくなることも期待できる。こうして、2011年から双方の通商担当による協議が重ねられた末に、TTIP交渉は、2013年7月に正式にスタートした。

交渉はEUを代表して欧州委員会通商総局が行う

貿易や投資に関する協定は、通常、主権国家同士で交わされるものだ。しかし、28カ国からなる単一市場を形成するEUでは、加盟国を代表してEUの行政執行機関である欧州委員会が貿易協定を交渉する。TTIP交渉にあたっても、加盟国政府の代表が構成するEU理事会から欧州委員会に対し、具体的な交渉マンデート(任務)が理事会指令という形で出され、それに基づいて欧州委員会通商総局が米国通商代表部と交渉をしている。EU理事会と、EU市民を代表する欧州議会は、欧州委員会が作成する交渉文書を共有し、協定の最終決定を行うことになっている。合意に至った協定は、EUとして締結する。

TTIP交渉では、欧州委員会通商総局と米通商代表部の官僚レベルによる交渉会合(ラウンド)が、年に3~4回のペースでEUと米国で交互に開催されている。交渉に関する利害関係者への公聴会などは、交渉と交渉の間、さらに毎回1週間続く交渉ラウンドの合間にも開催される。2016年の交渉は、2月にブリュッセルで12回目が、さらに2カ月後の4月末にニューヨークで13回目の交渉が終了した。

政治的な判断が必要とされる局面では、閣僚レベル会合が行われてきた。昨年12月末に続いて、本年4月にもセシリア・マルムストロム通商担当委員と米通商代表部のマイケル・フロマン代表が会談を持ち、またオバマ大統領の4月のEU訪問で、年内の交渉終了に向けて、拍車がかけられた。

あるゆるステークホルダーを巻き込み、公開性・透明性を重視

欧州委員会は2015年10月に、全ての関係者を利する貿易を目指し、EUの新たな貿易・投資戦略「Trade for All (万人のための貿易)– Towards a more responsible trade and investment policy」を打ち出した。戦略策定の背景の一つは、TTIPに代表されるような大型貿易協定の締結交渉を重ねる過程で、これらが企業の利益を優先しているのではないかとの声が挙がり、一般市民から「誰のための貿易政策なのか」という懸念が出されたことに対応する必要があったことが挙げられる。

EUはTTIP交渉の透明性などについて動画を利用して分かりやすく説明している(左は交渉の透明性に関する動画、右はTTIPで守るべき権利などを説明した動画)© European Union, 1995-2016

 TTIP交渉では、経済界からの代表はもちろんだが、これまで軽視されがちだった中小事業者、福祉などに関わる公共事業団体、市民(労働者であり、消費者であり、生活者でもある)など、この協定によって影響を受けると考えられる、ありとあらゆる利害関係者を積極的に巻き込んでいる。さらに注目すべきは、交渉の進捗に沿って、交渉方針や条文案をオンラインで公開するなど、徹底した公開性と透明性を貫いている点だ。マルムストロム委員は、2014年11月の就任直後に、「TTIPの内容は、EUと米国双方にメリットのあるものでなければならない。また交渉そのものが透明でなければいけない。それは当たり前のことだ」と透明性を一層高める取り組みを宣言している。

左:TTIP交渉の透明性などについて欧州議会で説明するマルムストロム通商担当委員(2014年11月24日、ストラスブール) © European Union, 1995-2016 右:TTIP第11回交渉後、共同記者会見を行うマラニー米首席交渉官(左)とEUのガルシア・ベルセロ首席交渉官(右)(2015年10月23日 米国・マイアミ) © European Union, 1995-2016

オンライン公開されている文書の種類の多さ

日・EU間で2013年4月から協議が続いている自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の進め方とは大きく異なり、徹底した公開性と透明性が貫かれているTTIP交渉。協定の24あるそれぞれの章ごとにオンラインで公開されているのは、各章の目的、議論の焦点は何かなどを平易な英文2ページにまとめた「ファクトシート(概要説明)」。加えて、交渉文書として、交渉で実現させたいことを明文化した「方針書(position paper)」と協定に盛り込む文章の原案(EUから提案したもの)「条文案(textual proposal)」。条文案は、素人には読みにくい法律文書であるため、理解を助ける、解説書(reading guide)が付く場合もある上、用語集(glossary)も用意されている。もちろん、最終協定文書(final text)もアップロードされる。これら文書の一覧はこちら

さまざまな業界や市民、消費者の利害を代表する16人の専門家で構成される独立諮問グループも設置され、2014年1月の設立以来、欧州委員会の交渉団とほぼ毎月、会合を繰り返し、その報告書も逐次公開されている。公聴会、討論会や交渉ラウンドのスケジュール、それに付随する写真やビデオも閲覧できるようになっている。加えて、オンラインで誰もがいつでも情報を求められるページも用意されている。TTIPに関する欧州委員会通商総局のウェブサイトはこちら

Part 2では、TTIPの内容のうち、日本人にも関心のある争点について説明する。

2016/05/31

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