2014.2.25

FEATURE

EUが進める待ったなしの若年層雇用対策

EUが進める待ったなしの若年層雇用対策
PART 1

職に就けない若者たちの苦渋

若年層の失業者が半数以上の国も

欧州連合(EU)では失業率が増加し続けているが、とりわけ深刻なのは若年層(15歳~24歳)だ。EU加盟28カ国の平均で、実に23.5%の若者が仕事が見つからない状況にある。ただし、加盟国の中でも国によって差は大きく、失業率が最も低いドイツ(7.9%)と最も高いギリシャ(57.3%)とでは50ポイント近い開きがある。若年層の失業率はギリシャに次いでスペインが高く(56.5%)、クロアチア(52.8%)も半数を超えている(表1参照。2013年7月時点)。

注:ラトビア、ルーマニアは2013年6月のデータ。ユーロ圏17カ国は当時。

ロストジェネレーション対策とニート支援が焦点

EUではロストジェネレーション対策とニート支援に力を入れている © Eurofound

EUの行う雇用支援は、特に失業率が高い国における25歳未満の若者が対象となる。この世代は、これまでの世代からは想像もつかない厳しい雇用情勢に置かれている世代、「ロストジェネレーション」と呼ばれている。またこの世代はニート(NEET=Neither in Employment nor in Education or Training、就労も就業もしていない、職業訓練も受けていない状態、またはその状態にある人)の比率がとりわけ高くなっており、EUではロストジェネレーション対策とニート支援に力を入れる。一律的な雇用支援は莫大な費用がかかる割りに効果が薄く、時に「ばらまき」という批判を受けることもあるため、EUは支援の対象と目的を明確化することにより費用対効果を高めている。

若年層の失業率は全成人の2倍以上に達しており(全成人9.2%に対し若者22.7%、2012年第3四半期)、ニートの比率も増加している。2011年には若年層の12.9%がニートであり、3年前の2008年よりも2ポイント増えている。社会がニートを抱えることによる経済的コストは莫大であり、欧州生活労働条件改善財団の推計(税収や売り上げから算出)によると毎年1,500億ユーロ以上、EUのGDPの1.2%にも上る。ブルガリアやキプロス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、ポーランドなど一部の国ではGDPの2%以上だ。

 

 

 

 

「欧州の現代の若者は労働市場で居場所が見つからないか、不安定な状況で就業を続けざるを得ない環境にあり、前の世代と比較して生産性の低下と労働から得る満足感の希薄化が著しい」と、欧州委員会のラースロー・アンドル雇用・社会問題・ソーシャルインクルージョン担当委員は深い憂慮を示す。また、「今日、550万人以上の25歳未満の若者が無職であり、2008年の世界的経済危機を契機に数が激増した」と指摘するアンドゥルラ・バシリウ教育・文化・多言語主義・青少年担当委員は、「EUと地方自治体、雇用者団体、労働団体、大学、職業訓練所が一体となってこの危機を乗り越えねばならない。ロストジェネレーション対策は最優先課題だ」と言う。

かねてよりEUは、学校教育から脱落したり、職業訓練を十分に受けていない若者の多くが職に就けずにいる実態を問題視してきた。ただ近年は、教育を受け、スキルを身に付けたとしても、すぐに職に就ける経済環境ではないことが若年層の雇用問題をさらに根深いものにしている。経済の悪化でEU加盟国の財政も緊縮に緊縮を重ねていることに加えて、グローバル化により職が海外に流出して技能の空洞化が起きていること、情報通信技術(IT)の進展により単純作業の価値が下がり、高スキルで高賃金の少数の労働者と低スキルで低賃金の大量の労働者の二極化が進んだことも、若者の就業意欲の低下を招いているといわれる。

このためEUでは、若者の雇用支援においては職業訓練と並行して労働市場も改革し、スキルをつけた若者が適した職業に就けるよう環境を整えることに踏み出した。それが「若年雇用パッケージ(Youth Employment Package)」だ。

雇用支援に60億ユーロを投入

2012年12月、欧州委員会は若者層の失業対策のため「若年雇用パッケージ」という予算総額60億ユーロに上る施策群を提示した。施策群には、学業から仕事への移行を円滑にし、各加盟国が欧州社会基金(ESF)などの構造基金を活用しやすくするための「若年者保障(Youth Guarantee)」、「欧州の見習い制度のための連帯(European Alliance for Apprenticeships)」、「欧州の職業訓練支援のための高品質な枠組み(European Quality Framework for Traineeships)」、欧州の職業安定所であるEURESの若者への支援拡大が含まれる。雇用機会獲得能力(エンプロイアビリティ)のある人材を育成するとともに、その人材を有効に活用できる場を提供するのがねらいだ。

若年者保障は、2013年4月にEU理事会の勧告採択という形で各加盟国の承認を得、それに従い各加盟国は実施計画を立てることとなった。年次成長概観(AGS 2013)にも「若年者保障」は組み入れられ、各加盟国はヨーロピアン・セメスターを通じて取り組みを監視される。つまり若年者保障は各加盟国にとって、迅速に開始し、早急に実現せねばならない、最重要課題に位置付けられたのだ。2014年1月現在、17加盟国が最終計画を欧州委員会に提出済みで、11カ国がまだ準備段階にある。

「若年者保障(Youth Guarantee)」の主な内容

  • 公的教育を終了した、あるいは失職した25歳未満の若者は、4カ月以内に新たな雇用や教育・見習い制度・職業訓練が提供される。
  • 見習い制度や転職支援を行う雇用者には、補助金が優先的に提供される。
  • 全利害関係者の裁量を広げ、若年者保障計画の設計、実施がスムーズに行えるようにする。
  • 起業家精神や自営業を推進するための教育サービスも提供する。
  • 若者と関わりのある他組織との協業、追跡システムの確立を通じ、支援の必要のある若者を漏れなく見つけ出す。
  • 施策の監視と評価を行い、若年者雇用計画のさらなる進化につなげていく。

「若年者保障」を効果あるものにするには、できるだけ早期に支援を開始すると同時に、きめ細かな施策内容を展開することにかかっていると言えよう。事実、EUの行う若年者保障の先駆けとなった支援策を展開しているスウェーデンとフィンランドでそれが裏付けられている。両国の支援策はいずれも高い成果を上げており、スウェーデンでは2010年に46%、フィンランドでは2011年に83%の若者が職を見つけている。同様の施策はすでにオーストリア、デンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガルでも導入されている。

スウェーデンとフィンランドの「若年者保障」は、個人個人の事情に適応した対策がとられている。失職した若者は登録後、詳細な査定が行われ、それに準じた能力開発計画が作成され、求職活動と訓練を連携させた雇用支援が実施される。費用はスウェーデンでは1人あたり6,000ユーロ未満と費用対効果が大変高く、ユーロ圏全体なら210億ユーロ以下。ユーロ圏の加盟国政府の支出全体のわずか0.45%である。

「若年者保障」の実施で重視される3つのポイント

  1. 各加盟国の多様性
    失業率が深刻で、緊急性の高い国もあれば、それほどでもない国もある。一応教育設備が整っており、活用を促せば雇用率を改善できる国もあれば、設備自体を一から作り上げなければ改善が難しい国もある。労働市場の規模が小さく、雇用を生み出しにくいところに最大の問題がある国もある。各加盟国の事情を考慮した上で、最も効果的な方法で雇用支援が実施される。
  2. 長期的な投資効果
    教育を単なる人材育成ではなく、費用対効果を重視した長期的投資ととらえる。真摯に取り組むことにより、各加盟国経済へ将来の利益がもたらされる。
  3. 費用の抑制
    全関係者との協力関係の構築により実現されるため、莫大な予算が不要となる。

 

EUはさまざまなイベントを通して若者が社会から孤立しないよう支援している Photo: EU Social

若年層の雇用支援を特集した前回でも取り上げたように、これまでEUは政策パッケージ「豊かな雇用を生む経済再生」、政策合意「成長・雇用協定」を打ち出してきた。今回新たに欧州社会基金(ESF)などからの支援を受け、「若者雇用パッケージ」を強化するための「若年雇用イニシアチブ(YEI)」を実施、60億ユーロが措置される。「若年雇用イニシアチブ」では、若年失業率が25%を超える地域に焦点を当てて資金提供が行われる。60億ユーロは2014年~15年に前倒しで拠出され、EU予算の状況を見ながら、最終的に80億ユーロまで引き上げられる。

今回の若者雇用支援の手法が、EU政策の根幹をなすソーシャルインクルージョン(社会的包摂)という発想と深く結びついていることも特記すべきだろう。ソーシャルインクルージョンとは、精神あるいは身体障害者、移民労働者、片親家族など、福祉が届かず社会的に排除された状態(ソーシャルエクスクルージョン)にある人々の社会への統合、参入を促すことをいう。

Part2では「若年雇用パッケージ」の「若年者保障」以外の内容、「欧州の見習い制度のための連帯」、「欧州の職業訓練のための高品質な枠組み」、欧州の職業安定所であるEURESの若者への活用について紹介する。

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