2012.2.17

FEATURE

包括的なパートナーシップを探る日・EU関係

包括的なパートナーシップを探る日・EU関係
PART2

日・EU関係の歩みと展望

日・EU関係は、対話と協力を原則とするという1991年の「日・EC共同宣言」を基盤に進展してきた。2001年の「日・EU協力のための行動計画」を経て、現在日本とEUは経済・政治関係を刷新しさらに高めるための包括的枠組みを模索している。より強固なパートナーシップに向けて新たな一歩を踏み出す今、日・EU関係を振り返ってみよう。表1 日・EU関係の歩み

対話の時代——日・EU定期首脳協議

1970年~80年代の貿易摩擦の時代を経て、日・EU関係が改善に向かう最大の起点は、1991年7月にオランダ・ハーグで開催された第1回日・EC首脳協議であった。このとき調印された「日本国と欧州共同体およびその加盟国との関係に関する共同宣言」(「日・EC共同宣言」または「ハーグ共同宣言」)は、欧州共同体(当時)と日本が共有する自由、民主主義、法の支配、人権、市場原理、自由貿易といった価値に基づき、地球規模の課題に対処すべく、対話と協力を強化することをうたっている。またハーグでは、首脳協議を毎年1回の定期開催とすることも決められた。

日・EU協力のための行動計画 重点目標
1.
平和と安全の促進
2.
グローバル化の活力を万人のために生かした経済・貿易関係の強化
3.
地球規模の問題および社会的課題への挑戦
4.
人的・文化的交流の促進

対話を重ね、相互信頼を深めていった両者は、第1回首脳協議から10年を経て、ハーグ共同宣言に代わる基本文書を打ち出した。2001年12月にブリュッセルで開かれた第10回日・EU定期首脳協議で採択された「共通の未来の構築——日・EU協力のための行動計画」である。この計画では、日本とEUがグローバル・パートナーであることを前面に出し、その後の10年間に達成すべき4つの重点目標ごとの具体的な協力措置を規定した。こうして日・EU関係は、経済の枠を超え、自国・域内もしくは地球規模で共に行動していく新たな関係へとステップアップしていった。

新たな10年のスタートに向けて

日・EU行動計画を軸に、両者はその後の10年間、さまざまな協力強化のチャンネル・ネットワーク・交流事業を通じてパートナーシップを強めてきた。→表2〜4 日・EUの対話枠組み・交流プログラム・ネットワーク

行動計画完了を間近に控えた2010年の第19回定期首脳協議では、次の10年の新たな取り組みを打ち出すべく、日・EU関係の包括的な強化を目標にその枠組みを定める「合同ハイレベルグループ」を設置することが決まった。

そして1991年の日・EC共同宣言から20年、日・EU行動計画の開始から10年を経た2011年、日本は3月11日に東日本を襲った地震と津波、それによって生じた福島第1原子力発電所事故という未曾有の試練に直面した。

5月28日にブリュッセルで開かれた定期首脳協議は、EU側からの提案で「Kizuna(絆)サミット」と命名され、第20回という節目の式典的な要素は最小限にとどめられたものの、基本的価値を共有するグローバル・パートナーであり、その協力関係を一層拡大・深化させ絆を強めて世界の平和と繁栄に寄与していくことを再確認する機会となった。絆サミットでは、東日本大震災および福島第1原子力発電所事故を踏まえた、原子力安全、エネルギー、災害対策といった分野での協力強化で一致した。また合同ハイレベルグループの作業を踏まえ、日・EU経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)ついて、交渉の可能性を探るプロセスの開始とともに、それ以外の政治的・国際的・分野別の課題をすべて含んだ枠組み協定についても、同様のプロセスを開始することに合意した。→表5 震災後のEUの主な動き

今後の展開を占うカギ

FTA/EPA交渉は、日本とEUが包括的な協力強化に向けて新たな一歩を踏み出すための最重要テーマのひとつであり、第20回首脳協議での合意に基づき、2011年7月から日・EUの担当者間で交渉の範囲や目標を明確にするためのスコーピングと呼ばれる協議が始まっている。日本側の関心は主に自動車や電子機器・製品等の関税引き下げ、EU側の主な関心は、非関税障壁撤廃と日本の公共調達市場への参入である。
2011年11月には、キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長の来日があった。東日本大震災の被災地訪問の前の玄葉外務大臣との会談で上級代表は、FTA/EPA交渉とならび、外交・安全保障をはじめとする幅広い分野での日・EU協力を深めるための枠組み協定の交渉への取り組みにも触れ、日・EU関係を均衡のとれた包括的なものにするため、2つの質の高い協定に向けた道筋をつけることが重要、と強調した。
日本とEUにとって2011年は互いの絆を深く再確認する1年となった。2012年は、両者ともに困難な状況にある中、グローバル・パートナーとしての関係をより強固にする上で非常に重要な起点となるはずだ。年内に日本で開催される第21回定期首脳協議で、FTA/EPAおよび枠組み協定の交渉入りが決定されるかどうかに注目が集まる。

日・EU関係の新時代の象徴 新ヨーロッパハウス


© European Union, 2011

 

駐日EU代表部は2011年8月15日、港区南麻布に新たに建設した「ヨーロッパハウス」に移転した。代表部が千代田区に開設された1974年以来、事務所および外交官宿舎はすべて賃貸だったが、EUは2003年に施設の恒久取得を決定し、2006年に3,338㎡の国有地を購入。事業者の入札を経て2009年6月に着工、およそ2年をかけて延床面積1万㎡超の建物が完成。新ヨーロッパハウスは、オフィス棟と住居棟の2棟からなり、大使公邸、外交官宿舎のほか、会議場やレセプションホールを擁する複合施設。「多様性の中の統合」というEUのモットーを体現した特異なデザインに最新の環境技術を盛り込んだ建築は、日本におけるEUの新しい存在感を象徴するにふさわしい。

 

俳句が結ぶ日本とEU


地震と津波の犠牲者を悼む記帳を行うヴァンロンプイ議長
(2011年3月、在ベルギー日本大使館)© European Union, 2011

 

2011年5月28日の第20回日・EU定期首脳協議の記者会見では、共同声明に続き、日・EU英語俳句コンテストの最優秀賞受賞者も発表された。欧州理事会のヘルマン・ヴァンロンプイ議長(2009年12月に初代議長に就任)が句集を出すほどの俳句愛好家であることから始まった同コンテストはこれで2回目。日本側の最優秀賞受賞者は議長の出身国ベルギーに、EU側の受賞者は俳句の町・松山市にそれぞれ招待される。震災後の昨年は「絆」がテーマに選ばれた。なお、ヴァンロンプイ議長も首脳協議後の会見で、「The three disasters, Storms turn into a soft wind, A new humane wind」という自作の句を披露し、日本人を温かく励ました。俳句を通じた心と心の交流がEUと日本の結びつきをより豊かなものにしている。

 

 

 

 

表1 日・EU関係の歩み
1959年
駐ベルギー日本大使、欧州石炭鉄鋼共同体・欧州経済共同体・欧州原子力共同体の3共同体への日本政府代表に任命
1969年
日本初の欧州共同体(EC)資料センター、西南学院大学(福岡)に設置
1974年
駐日EC委員会代表部開設(東京都千代田区)
1978年
第1回日・EC議員会議(ルクセンブルク)
1979年
駐EC日本政府代表部が在ベルギー日本大使館より分離独立
1984年
第1回日・EC閣僚会議(ブリュッセル)
1987年
日欧産業協力センター設立(東京)
1991年
第1回日・EC定期首脳協議(ハーグ)、「日・EC共同宣言」調印
1994年
日・欧州連合(EU)規制改革対話開始
1999年
日・EUビジネス・ダイアログ・ラウンドテーブル発足
2001年
第1回日・EUフレンドシップウィーク(日本)
第10回日・EU定期首脳協議(ブリュッセル)、「日・EU協力のための行動計画」採択
2002年
日・EU相互承認協定発効
2003年
日・EU競争政策協力協定締結
2004年
初のEUインスティテュート・イン・ジャパン設立(東京)
2005年
日・EU市民交流年
2009年
リスボン条約発効、駐日欧州委員会代表部から駐日欧州連合代表部に名称変更
2011年
3月 日・EU科学技術協力協定発効
5月 第20回日・EU首脳会議
8月 駐日EU代表部、新ヨーロッパハウスに移転(港区南麻布)

※ 表中の組織・会議等の名称は当時のもの

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表2 日・EU関係のさまざまな対話枠組み(一例)
日・EU定期首脳協議
日・EU政務局長会議
日・EU産業政策・産業協力ダイアログ
日・EUハイレベル貿易ダイアログ
日・EU財務金融ハイレベル協議
日・EUハイレベル環境ダイアログ
日・EU科学技術協力合同委員会
日・EU情報通信技術(ICT)政策対話
日・EUビジネス・ラウンドテーブル
表3 日・EU間の主な交流プログラム
EUビジネスマン研修プログラム(ETP)
1979年に始まった、日本市場進出を目的とする欧州企業のビジネスマンに対して行う12カ月間にわたる人材育成プログラム。
日・EU貿易投資促進キャンペーン
“EU Gateway Programme”

1994年に始まった、日・EU間の貿易と投資を促進するキャンペーン。2009年-2014年のプログラムでは、日本市場で有望視される6つの産業分野(建築資材・建設技術、ファッション・デザイン、環境・エネルギー関連技術、医療ヘルスケア製品・技術、インテリア・デザイン、情報通信技術)のEU企業が来日し、展示・商談会を開催。
ヴルカヌス・プログラム
1997年にスタートした日欧の理工系学生を対象に行う語学研修と企業インターンシップのプログラム。日本人向けに欧州で行われる研修と欧州人向けに日本で行われる研修の両方がある。
日・EUフレンドシップウイーク
2001年以来、毎年5月9日の「ヨーロッパ・デー」を中心に日本各地で開催される文化、社会、学術、スポーツのイベント。全国の高校への出張授業「EUがあなたの学校にやってくる」、映画祭「EUフィルムデーズ」など。
マリー・キュリー・アクション
第7次研究枠組み計画(FP7)の枠内で行われる研究者の国際交流プログラム。
エラスムス・ムンドゥス
EUと日本など域外諸国の間で行われる高等教育機関の学生・教員交流 プログラム。

 

表4 日本における主なEUネットワーク
EU情報センター(EU i)
全国19の大学内に設置されているEUの公式資料・情報センター。国立国会図書館内には、寄託図書館が設置されている。
EU協会
日・EU間の相互理解と友好関係の促進を目的に、1987年以来、日本各地に13カ所設置されている。EUをテーマとする講演会、セミナー、文化イベントの開催や支援、視察団の受け入れなどを行う。
日欧産業協力センター
欧州委員会と通算省(当時)の合意に基づき、1987年に設立。日・EU間の産業協力を推進する非営利団体で、日欧間のビジネス情報の交換や人的交流の促進を通じて日欧企業双方の競争力向上を図る。
EUインスティテュート・イン・ジャパン(EUIJ)
日欧の学術協力および教育交流を促進するための活動を展開する大学コンソーシアム。2004年に最初のEUIJが設立されて以来、現在ではEUインスティテュート関西(神戸大学・関西学院大学・大阪大学)、EUスタディーズ・インスティテュート東京(一橋大学・慶応義塾大学・津田塾大学)、EUIJ早稲田(早稲田大学)、EUIJ九州(九州大学、西南学院大学、福岡女子大学)、EUIJ東京(一橋大学・国際基督教大学・津田塾大学)の5つの拠点がある。
欧州ビジネス協会(EBC)
1972年に設立。欧州17カ国の商工会議所や駐日経済団体を統括する機関。駐日欧州企業の貿易、投資環境の改善を図る。
在日EU文化機関ネットワーク「EUNIC Japan」
東京にあるEU10カ国の文化団体・機関が、日欧文化交流の推進を目的に2008年に設立(現在は12カ国が参加)。知識・資源の共有および欧州の芸術・文化・言語の多様性の認識向上を目指す。
日本EU学会
EU研究の促進およびその研究者の相互協力の推進、および内外の学会との連絡・協力を図ることを目的に1980年に創設された。

 

 

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表5 東日本大震災・福島第一原発事故後のEUの主な動き
3月11日
バローゾ欧州委員会委員長とヴァンロンプイ欧州理事会議長、日本の国民と政府および犠牲者の遺族に対し、連帯と哀悼の意を表し、日本政府から要請があれば可能な限りの支援を行うと表明
3月19日
15名のEU国際緊急援助チーム来日、活動開始
3月24日
EUの救援物資第1便70トンが成田空港に到着
3月25日~27日
ゲオルギエヴァ国際協力・人道援助・危機対応担当欧州委員が来日、被災地(茨城県)を見舞い、援助物資を届ける
4月4日
欧州委員会、1,000万ユーロの追加支援を決定
4月末時点でEU全体が提供した援助物資:約400トン、金融支援:1,726万8000ユーロ
7月13日~15日
EU代表部および在日EU加盟国大使館の5カ国の職員12名ががれき撤去作業に参加
10月14日
EU加盟国大使会合、福島市にて開催。福島および東北地方への連帯を表明
11月1日~3日
アシュトンEU外務上級代表が来日、被災地(宮城県)を訪問

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