EUが初めて開催したG7サミット

© European Union, 2014

異例の事態の中で開催されたブリュッセル・サミット

毎年開催される主要8カ国首脳会議(G8サミット)には、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国、ロシアの首相もしくは大統領に加え、欧州連合(EU)から欧州理事会議長と欧州委員会委員長の2名が出席している。G8と呼ばれながらも10名の首脳で構成されているのだ。会合の議長国は参加国の輪番制で、本年はロシアの議長の下、6月4日~5日にソチでの開催が予定されていた。

ところが2月終わりのクリミアへの軍事介入の動きに端を発し、ロシアによるウクライナの主権と領土の保全の侵害という問題が起こった。自由や民主主義、法の支配といった共通の価値を持つG8だが、ロシアの行動は他の7カ国にとって、受け入れがたい事態であった。G7首脳は2014年3月24日に、オランダ・ハーグで開催の核安全保障サミットの合間にウクライナ情勢をめぐる緊急会合を持ち、ロシアの違法な行動を非難するとともに、対ロシア制裁強化の用意があることなどを含む「ハーグ宣言」を採択した。ハーグ宣言には、ソチ・サミットには参加せず、同時期にブリュッセルでG7の形でサミットを開催することも盛り込まれた。こうして、EUの主要機関が集まる、いわばEUの首都ともいえるブリュッセルで、EUが初めて主催するサミットの開催が決定された。G7の形でのサミットは、ロシアが参加する以前の1997年以来のことであった。

ウクライナ問題、世界経済、エネルギー問題などに議論が集中

サミット初日のワーキングディナーでは、ウクライナ問題が重点的議題として話し合われた。ウクライナの主権と領土の保全は、EUと深く関わる問題である。EUは「東方パートナーシップ 」という取り組みを通し、同国を含む東欧6カ国の自由と民主主義、法の支配を支援している。ヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長は「ウクライナ危機発生以来、G7首脳とEUは、その対応について一致団結している」とし、「武力的侵略には、政治的制裁だけではなく、経済的にも制裁を行う」と述べた。

ブリュッセルで開催されたG7サミットのワーキングディナーで議論する首脳ら(2014年6月4日) © European Union

また、ロシアとの緊張緩和やウクライナの安定に向けた具体的な議論も交わされた。首脳らはウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領が民主的な手続きを経て当選したことを歓迎し、ウクライナの経済・政治改革の支援の継続を表明した。また、ロシアがウクライナの新しい大統領と協力し、政治的解決に向け尽力することを期待するとともに、「必要となればロシアへの制裁強化を実施する用意もある」とした。

サミット2日目には、世界的経済成長と高失業率について意見を交わした。また、通商問題、特にG7各国・地域同士で交渉中の環太平洋パートナーシップ(TPP)、新サービス貿易協定(TiSA)などの、積極的で野心的な通商協定について話し合った。その後、エネルギー安全保障について、エネルギー源と供給ルートの多様化が中心に議論され、ジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は、「不安定な地域に多く埋蔵されている石油への依存度を減らし、再生可能エネルギーなどにシフトしていくことが、エネルギーの安定供給につながる」と述べた。地球温暖化に関しては、2015年以降の枠組みの採択に向けた決意が表明された。

ブリュッセルでは、G7サミットに先立ち、日本とEUの個別協議も行われた(2014年6月4日) © European Union

その他、シリアやリビア、東アジア情勢、北朝鮮の懸念材料など、外交政策についての議論が行われたほか、野心的で普遍的なポスト2015年開発アジェンダについてなど、世界におけるさまざまな重要課題について議論された。

またEUは、G7の機会をとらえ、日本、カナダ、米国との個別協議も行った。安倍晋三総理大臣とヴァンロンプイ議長、バローゾ委員長の三者は、本年5月7日に第22回定期首脳協議を持ったばかりであったが、同首脳協議で一致したいくつかの点について進展が見られることを歓迎し、また、包括的かつ野心的な日・EU自由貿易協定(FTA)の交渉をさらに加速させたいという点でも一致を見た。また、ウクライナ情勢やアジア情勢についても意見交換が行われた。

EUとG7/G8

主要国サミットは、世界的な経済問題について先進国首脳が討議する場として、1975年11月に、第1回会議がパリ郊外のランブイエ城で開催された。この時の参加国は、フランス、ドイツ、イタリア、英国、日本、米国の6カ国。翌年のサンファン・サミット(プエルトリコ)でカナダが参加し、7カ国に拡大、「G7」となる。1994年のナポリ・サミット以降、ロシア大統領が政治討議に参加するようになり、1998年のバーミンガム・サミットより、ロシアを加えた「G8」という呼称が用いられるようになった。2003年のエビアン・サミットからロシアはすべての日程に参加していた。

EU首脳は2名参加するため、記念撮影では各主要国首脳が両手で握手をすることになる。左より、バローゾ欧州委員会委員長、安倍総理大臣、ヴァンロンプイ欧州理事会議長 © European Union

EUが初めて参加したのは、1977年のロンドン・サミット。当時のEC委員会(現・欧州委員会)委員長と閣僚理事会(現・EU理事会)議長が参加した。それは、1970年に加盟国からECに、通商、農業政策等の政策分野の権限が移譲されたため、主権を移譲された政策分野でECを代表して、議論に加わることが目的であった。

その後、欧州委員会はサミットの準備会合にも参加するようになり、現在EUはG7/G8の正式メンバーとして、準備会合、関連する閣僚級会合を含めすべての討議に加わっている。G8サミットは市場経済や自由と民主主義、法の支配といった価値を共有する国々の首脳で構成されており、EUの理念とも深く通ずる。その中で、EUは域内単一市場の創設、ECからEUへの発展、経済通貨同盟(EMU)の完成、共通外交・安全保障政策(CFSP)の進展等により、G8における存在意義を高めてきた。現在、G7/G8でEUを代表するのは欧州委員会委員長と欧州理事会議長の2名だ。

今回のサミットは、議長国抜きの開催という異例の事態の中、急きょホストを買って出たEUが存在感を示す結果となった。EUは今後も国際秩序、世界の平和と安定、経済成長等の重要課題について、加盟28カ国を代表して主要国会合に積極的に関わっていく。

関連情報

G7ブリュッセル・サミット首脳宣言(外務省のHPに掲載のもの)
(日本語仮訳)http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_001097.html
(原文)http://www.mofa.go.jp/ecm/ec/page22e_000387.html