優れた女性起業家を選ぶEU女性イノベーター賞

2017/03/30

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EUでは女性の研究者が増え、活躍の場を広げているが、革新的な研究成果を事業化しようとする女性はまだ少ない。研究分野での女性起業家を育成し、欧州の競争力と経済成長の維持に貢献してもらうことを目指す「EU女性イノベーター賞」の、2017年の受賞者が去る3月8日に発表された。

研究助成プログラム「ホライズン2020」が女性イノベーターを支援

欧州委員会は、「国際女性デー」の3月8日、技術革新的なアイデアを市場にもたらした女性起業家を表彰する「2017年欧州連合(EU)女性イノベーター賞」の受賞者を発表。最終選考に残った12人の中から、傑出した女性起業家3人、本年新たに加わった30歳以下の女性起業家を対象にした「ライジングイノベーター賞」の受賞者1人が選ばれた。

「イノベーター」とは全く新しい製品、技術、サービスなどを導入する人を指し、「革新者」とも訳される。EU女性イノベーター賞は、EUの研究とイノベーションに関する7カ年計画「ホライズン2020(Horizon 2020)」が資金提供している取り組みで2011年に創設された。これまで、2011年、2014年および2016年に、過去に画期的なアイデアを事業化した女性起業家を表彰している。

ホライズン2020では、研究とイノベーション分野における男女均衡の促進に努めている。EU女性イノベーター賞への資金提供もその一環だ © European Union, 1995-2017

参加資格は、①女性であること(ライシングイノベーター賞の場合は1986年以降の生まれ)、②EU加盟国もしくは「ホライズン2020」と協定を結んでいる国に居住していること、③2015年1月1日以前に設立した企業の創始者か共同創始者であること、④2014年か2015年に年間10万ユーロ以上の売り上げがあること、⑤応募者個人もしくは創設した企業が、EUもしくは各国の研究・イノベーションに関する助成金や事業化を視野に入れた銀行の資金融資などを受けていること――の5点。2017年のコンテストには47人が応募し、特許数などの独創性・市場性や、経済的・社会的インパクト、企業発展への貢献度合いなどの基準で審査が行われ、1月24日に最終候補者12人が選ばれた。

欧州委員会のカルロス・モエダス研究・科学・イノベーション担当委員は授賞式で「欧州は、『アイデア』、『勇気』、『決意』をもって挑戦し成功した、このような女性たちをより多く必要としている。4人の受賞者の業績は、感動的で、ビジネスとしてだけではなく、欧州、さらにそれ以外の国の人々の生活を実質的に改善したという点で素晴らしい」と称賛。メイリード・マクギネス欧州議会副議長は「女性イノベーターたちの起業家精神と業績を、他の多くの、特に若い女性を鼓舞する形で、評価し祝うのは、まさに国際女性デーにふさわしいことだ」と述べた。

授賞式でスピーチをするモエダス欧州委員(左)。右はマクギネス欧州議会副議長(2017年3月8日、ブリュッセル) © European Union, 1995-2017

女性の起業への意欲を高めたいEU

EUは、そもそも創設時から男女平等を基本原則に据え、その実現に取り組んでおり、世界経済フォーラム(WEF)が発表した男女格差を測る指数「ジェンダー・ギャップ指数2016」でも、上位10カ国のうち4カ国(フィンランド2位、スウェーデン4位、アイルランド6位、スロヴェニア8位)がEU加盟国であることからも、取り組みの成果が分かる。

しかし、起業という面から見てみると、自営業に占める女性の割合は34.4%、女性起業家の比率は30%にすぎない。欧州では、今後数十年にわたって競争力を維持し、経済成長を成し遂げていくために、イノベーターを増やしていくことが急務になっている。特に女性に関しては、十分に教育され、優れた能力を持っているにもかかわらず、さまざまな理由で起業という選択肢を考慮に入れないケースが多く、イノベーターへの関心を喚起し、起業への意欲を高めてもらうのがEU女性イノベーター賞の狙いだ。

これまでのEU 女性イノベーター賞の受賞分野は多岐にわたっている。炎症性疾患やがんを標的にした薬剤の開発、バックアップ電源用自己充電式水素燃料電池システムの開発などがある。2016年の1位は、ポルト市(ポルトガル)で600台の車両をWi-Fiスポットに転換し、テラバイト級の都市データを収集する都市規模車両ネットワークを構築したVeniam社の共同創始者だ。

2017年の受賞者とファイナリストの顔ぶれ

2017年の受賞者とファイナリストの詳細は下記の通り。

1位  
(賞金10万ユーロ)

ミケラ・マガス(英国/クロアチア)Ms Michela Magas
Stromatolite社の共同創始者

産学や芸術、科学各界のイノベーター5,000人以上が参加するイノベーション・エコシステム「Music Tech Festプラットフォーム」を立ち上げた。オープン・プロダクト、IPイノベーションといったアイデアによって複数の先進的製品やサービスを同時に生むことを可能にした次世代インキュベーターでもある。

2位  (賞金5万ユーロ)

ペトラ・ワドストロム(スウェーデン)Ms Petra Wadström
Solvatten社の創始者

水処理と給湯を組み合わせたポータブルなシステム「Slovatten」を開発。電力が供給されていない、いわゆる開発途上国のオフグリッドの家庭向けに設計されたもので、太陽光で最高75度までの温水ができ、浄化も可能。劣悪な衛生状態にある貧困地域で安全な飲料水確保を可能にした。4人の母、生物化学技術者でありアーティスト。

3位  (賞金3万ユーロ)

クローディア・ガートナー(ドイツ)Dr Claudia Gärtner
Microfluidic ChipShop社の創始者

特定の臨床検査のための、マイクロチップ上で極めて微量の液体を扱う装置「ラボオンアチップ」のシステムを提供。少量の血液からがん、感染症などさまざまな分析・診断を可能にした。多くの可能性を秘めた解析診断ツールとして、さまざまなパッケージ製品やチップ上のアプリケーションを可能にすると目されている。

ライジングイノベーター賞  (賞金2万ユーロ)

クリスティナ・スヴェタノヴァ(ブルガリア)Ms Kristina Tsvetanova
BLITAB社の共同創始者

世界初の視覚障がい者向け点字タブレット「BLITAB®」を共同開発した。科学技術を通して恵まれない子どもたちに元気を与え続けることにより、「2015年世界で最もクリエイティブなスタートアップ賞」や、「社会起業と障がいのための欧州賞」も受賞。

 

その他ファイナリスト

ヘマ・クリメン(スペイン)Ms Gema Climent
NESPLORA社の共同創始者
バーチャルリアリティーの世界で、ハイテクを駆使して人間の行動を解析するツール「VRMind」を開発。眼鏡とソフトウエアで、認知障害の診断を可能にした。
バーバラ・ドゥメネックス(フランス)Prof Barbara Demeneix
WatchFrog社の共同創始者
遺伝子組み換えによって、汚染された水の中に入れられると光を放つ蛍光性のある稚魚やオタマジャクシの胚を作ることに成功。海や飲料水の中の有害な化学物質を選別するテストを商業化した。
マリー・フランチェザ(イタリア)Dr Mary Franzese
Neuron Guard社の創始者
事故で脳に損傷を負った人に、事故現場で速やかに治療を始められる医療機器を開発した。
ヘマ・ガルドン・クラヴェル(スペイン)Ms Gemma Galdon Clavell
Eticas Research and Consulting社の創始者
データ集約的技術が社会、倫理、法に与える影響を分析する政策分析学者。人間が科学技術に適応するのではなく、科学技術が人間に適応するような社会作りのために、複雑な社会現象に対処する技術的フレームワーク・方法を開発。
アフリカ・ゴンザレス・フェルナンデス(スペイン)Ms África González Fernández
NanoImmunoTech社の共同創始者
欧州で最初に、ナノ素材の合成、生体共役反応やバイオセンシングなどに取り組むNanoImmunoTech社を共同で設立。特定の薬物の輸送や、特定の病気の診断などに有用な特殊な性質を持つナノ素材を開発した。
カミラ・マークラム(ドイツ)Dr Kamila Markram
Frontiers社の共同創始者兼最高経営責任者(CEO)
Frontiersは、オープンアクセス(無料閲覧可能)学術出版やオープンサイエンスITソリューションを学術界および一般社会にもたらした世界最大規模のオープンアクセス出版社。2014年、同社は、出版業界のイノベーションに対するALPSP(Association of Learned and Professional Society Publishers)金賞を受賞。
サンドラ・レイ(フランス)Ms Sandra Rey
Glowee社の創始者
深海の発光性生物からヒントを得て、バクテリアが発光する光を都市のイリュミネーションに利用する有機的照明システムを開発。
イザベル・トリアス・ガイ(スペイン)Prof Isabel Trillas Gay
Biocontrol Technologies社の共同創始者
天然の微生物トリコデルマ・アスペレラム株T34をベースにして、環境、人体や動物への悪影響を与えない、新世代農業用殺虫製品を発明・開発した。

女性が特有の課題を解決し、あらゆる分野での起業促進を目指す

欧州委員会では、女性が起業しやすい環境を構築していくために、さまざまな施策を講じている © Giovanni Cancerni / Fotolia

欧州の人口における男女比率は、女性が52%。しかし、自営業に占める女性の割合、女性起業家の比率が低い背景には、資金調達の困難さ、ビジネスと家庭をいかに両立させるかといった問題がある。このため欧州委員会では、中小企業(SME)の規制や政策環境の簡素化を目的とする「中小企業法(Small Business Act)」、新ビジネスの創造を容易にし、成長のための支援環境を作り出すための「アントレプレナーシップ2020行動計画(Entrepreneurship 2020 Action Plan)」などを通じ女性の起業家精神の醸成を支援。EU女性イノベーター賞もその一環だ。

今後の国際社会でEUが競争力を高めるためには、女性の起業をあらゆる分野で促進することが必至となってきている。EU女性イノベーター賞が担う役割は、しばらくは継続しそうだ。

関連情報

男女共同参画社会を共に目指す EUが東京でハイレベル会合を開催」(2017年2月号 政策解説)

男女平等社会を目指すEU」(2016年3月号 特集)

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