マリ情勢をめぐるEUの対応

© EC / ECHO / Anouk Delafortrie

フランスがマリで軍事作戦を開始してほぼ2カ月。マリを含む近隣15カ国からなる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が支援部隊を派遣し、フランス軍と合同でイスラム武装勢力の掃討作戦に乗り出した。一方、欧州連合(EU)もマリ政府軍部隊の訓練・助言活動に着手するなど、国連を含めた関係機関による取り組みが全面的に動き始めた。

仏軍、ECOWAS部隊が軍事介入

フランスがマリ暫定政府の要請に基づき、軍部隊を投入したのは1月11日。昨年から北部を制圧し、首都バマコを含む南部への進軍を開始したイスラム武装勢力を阻止するのが狙いだった。軍事作戦にはチャドやコートジボワールに駐留するフランス軍部隊のほか、アルジェリア政府の領空通過許可を得て、フランス本土からの部隊も参加。武装勢力が実効支配する北部主要都市を空爆する一方、約2,500人の地上部隊を投入した。

イスラム武装勢力が南部に進軍するきっかけとなったのは昨年12月に採択された国連安全保障理事会決議第2085号。暫定政府に北部を奪還させるアフリカ主導による国際マリ支援部隊(AFISMA、期間1年)の派遣を承認したためだ。それに武装勢力側が反発した。

AFISMAの派遣は当初、本年9月からの予定だったが、フランスの軍事行動を受けて前倒しされた。各種報道によると、ナイジェリア(派遣表明数1,200人)が直ちに空軍・地上部隊の投入を開始。チャド(同1,800人)、ガボン(同900人)、ニジェール(同500人)、ブルキナファソ(同500人)などECOWAS諸国も呼応した。派遣予定部隊は約8,000人規模。装備、財政面の制約もあって実際に北部で過激派掃討作戦を展開しているのは4,000人規模のフランス軍とチャド軍部隊だ。

なぜ介入が必要だったか

マリは1960年に旧宗主国フランスから独立した。西アフリカはイスラム諸国が大半であるものの、穏健派が優勢で、これまで武装勢力の活動も比較的静かな地域だった。

情勢を変える引き金を引いたのは、カダフィ独裁政権打倒で終結した2011年のリビア内戦だ。石油マネーにモノを言わせてカダフィ大佐が買いあさった近代兵器が内戦のどさくさで大量に国外に流出、マリ北部の反政府組織の手にも流れ込んだ。傭兵としてカダフィ政権側に参加していた遊牧民トゥアレグ族民兵も帰還し、状況は流動化した。

マリ北部はトゥアレグ族住民の自治や独立を求める運動が強い地域。昨年3月に一部国軍兵士による軍事クーデタが発生し国内が混乱する間に、反政府勢力が北部主要都市を制圧。直後の4月にはトゥアレグ族武装勢力「アザワド地方解放国民運動」(MNLA)がマリ北部の独立を宣言した。大統領が辞任し、暫定政府に移行するなど中央政府の混乱に乗じる形で、「マグレブ諸国のアルカイダ」(AQMI)などアルカイダ系武装勢力がMNLAを排除し、北部の実権を握った。

武装勢力は外国人誘拐、麻薬密売、密貿易などで得た豊富な資金力をバックにアフリカ各地から兵力を補給・増強し、活動範囲もサヘル地方(サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地帯)一帯に拡大することが懸念された。この1月、日本人10人を含む39人の命を奪ったAQMIによるアルジェリア人質事件敢行は、アフリカのどこででもテロを行える力を誇示したとも言え、新たな外国人・企業を標的にする恐れも十分あり、こうした動きの芽を早急に摘む必要性があった。

EUの戦略的利益にも脅威

昨年に戦闘が始まって以来、マリ北部では40万人以上の住民が避難を余儀なくされ、このうち約7万人はモーリタニアやブルキナファソ、ニジェールなどの隣国に逃れた。マリを含むサヘル地方は過去1年にわたって食糧危機に見舞われており、治安悪化がそれに追い打ちを掛けた格好だ。

イスラム武装勢力やテロリストの活動活発化によってサヘル地方でEU市民が人質事件などに巻き込まれる懸念が一段と高まったほか、エネルギー供給面などEUの戦略的利益にとっても大きな脅威だった。

こうした危機的情勢を受けEUは動いた。すでに昨年7月から、共通安全保障・防衛政策(CSDP)の一環として、司法・治安分野の文民ミッション「サヘル地域テロ・組織犯罪対処能力構築ミッション」をニジェールに展開中(EUCAP Sahel Niger)であり、これをさらに強化するアプローチだ。

軍事訓練や人道支援を強化

EUが軍事協力面で打ち出したのはマリ政府軍に訓練・助言をするEU訓練ミッション(EUTM Mali)。ミッションは2月18日に始動、今後約200人の指導教官を配置し、支援・警備要員を含め約450人体制で訓練を行う。当面15カ月間の運営経費は推定1,230万ユーロ。これら部隊は北部地域での戦闘には関与しない。

アンドリス・ピエバルグス欧州委員会開発担当委員は1月29日に開催されたアフリカ連合(AU)主催のマリ支援国会合でAFISMAに5,000万ユーロ(6,500万ドル)の資金と兵站(へいたん)の協力を行う方針を表明。EUがマリ支援に強い姿勢で臨んでいるとのメッセージを送った。

EU外務理事会は1月31日、年内に総選挙を実施するとした暫定政府の政権移行ロードマップを承認しており、それを受けマリ向け開発援助(2億5,000万ユーロ=3億2,500万ドル)は徐々に再開される見通しだ。

EUはまた、2月15日にはマリ北部を中心にした治安回復・市民保護、都市部でのテロ対策、基幹インフラ防衛、教育・医療など基本社会サービスの再開、総選挙周知キャンペーンなどの安定化支援パッケージを承認した。第1弾として2,000万ユーロ(2,600万ドル)を支出する。

EUが主催したマリ情勢に関する支援グループの閣僚会合は、アフリカ連合、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)および国際連合も共同議長を務めた。マリのティエマン・クリバリ外務大臣(中)率いるマリ代表団には、シンコ・クリバリ地域行政大臣(右)とママドゥ・シディベ人道行動大臣(左)も参加した © The Council of the European Union, 2013

安定化にはなお時間

フランス軍やECOWAS部隊による強力な軍事介入の結果、マリの治安情勢は徐々に回復し始めている。未確認ながらも、アルジェリア人質事件を首謀したモフタール・ベルモフタールAQMI幹部の死亡説も伝えられている。フランスのファビウス外相は2月5日のメトロ紙とのインタビューで、3月中に同国軍部隊の縮小を開始、4月までにAFISMAの活動を国連治安維持活動(PKO)に引き継ぐ考えを示している。

ただ、西アフリカ諸国の国境はあって無きがごとくで、文字通り穴だらけ。武装勢力は自由に国境を移動しており、事実上野放し状態だ。治安回復にはなお時間がかかる見通しで、不確定要素もまだ多い。戦闘で北部居住地を追われた40万人以上の難民の帰還は遅れているのが実情だ。

(2013年3月11日 記)

※本稿は執筆者の見解であり、EUおよび加盟国政府の公式の立場や見解を反映するものではありません。

関連情報

欧州対外活動庁ウェブサイト(対マリ関係)
駐日欧州連合代表部ウェブサイト(マリ支援に関するニュース)