2016.1.19
FEATURE
昨年11月30日から12月12日までパリ郊外で開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会合(COP21)で、2020年以降の地球温暖化対策の枠組みとなる「パリ協定」が採択された。京都議定書に代わり、史上初めて196もの国・地域が参加する新たな枠組みである。途上国、新興国および先進国それぞれの利害が複雑に絡み合う中で交渉が難航したものの、歴史的合意に至った背景には、議長国フランスの手腕に加え、気候変動対策で一貫して先進的な取り組みを続けてきた欧州連合(EU)の巧みな調整があった。
11月13日の同時多発テロ以来、非常事態下にあるフランス・パリで開催されたCOP21。テロの恐怖も冷めやらぬ状況にもかかわらず、気候変動が地球の未来にとっていかに重要な課題であるかを象徴するように、会期初日の首脳会合には世界約150カ国の首脳が出席した。EUからも、ドナルド・トゥスク欧州理事会議長とジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長らが、バラク・オバマ米国大統領、中国の習近平国家主席、日本の安倍晋三総理大臣などと並んで参加。また、会期中パリには各国の交渉団に加え、世界中から多数のジャーナリストや環境活動家などの関係者も集結した。
2週間にわたる各国の主張が入り乱れた議論の末、会期を1日延長して12月12日に実現したパリ協定の採択。これは、1997年の京都議定書の採択と並び、地球温暖化対策の「歴史的な一歩」と言われている。先進国だけを対象にしていた京都議定書とは異なり、協定に途上国や新興国も加わることで公平性が高まり、全地球を挙げた地球温暖化阻止への取り組みを推進することが期待される。EUは、同協定の内容を「目標(Ambition)」、「責務(Commitment)」、「連帯(Solidarity)」の3つの観点から評価している。
パリ協定では地球の気温上昇の長期目標を設定。産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑えることが定められ、さらに「1.5℃に抑える努力」を付記することで、気候変動の被害を大きく受ける国々への配慮を示した。21世紀後半に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量となる「カーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)」を達成するという目標も設定した。現状の各国の削減目標だけでは気温上昇を2℃未満に抑制するには足りないが、同協定は目標達成への道を追求する。
温室効果ガス排出削減のための取り組みとして、各国は自主的に定めた目標を5年ごとに見直す必要があり、新目標は、前目標より野心的なものとすることが定められている。これら各国の取り組みを踏まえた世界全体の排出量がどの程度削減されているかを、2023年以降5年ごとに点検する制度も設けられた。
会合の最後まで対立が続いていた途上国への資金支援については、最終的には協定外で法的拘束力のない合意という形で、先進国が2020年から2025年まで年1,000億ドルを下限とする資金拠出額の目標を設定した。このほか、温暖化によって損失や被害(干ばつ、海面水位の上昇、感染症の拡大、生物種の絶滅)を受ける島嶼(とうしょ)国や途上国を先進国が支援する仕組みを作ることや、先進国が途上国に対して地球の温暖化に対処するための技術開発支援を行う仕組み、パリ協定の実施の透明性および遵守促進のためのメカニズムを設けること、などを盛り込んだ。
このように数々の合意を盛り込んだ新たな枠組みだが、交渉では温暖化目標や資金支援に関する対立も多く、調整が難航した。例えば、「産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑える」という目標に関して、海抜上昇で領土が消える可能性もある島嶼国に加え、ナイジェリアやネパールも気温上昇を1.5℃に抑えることを主張。対して、主要石油産出国であるサウジアラビアをはじめとするいくつかの国は1.5℃の努力目標を加えることに反対した。
また中国は、途上国の再生エネルギー開発援助費用の拠出を拒否。同じく世界の温室効果ガス排出量5大国の一つであるインドとともに、「各締約国は排出削減目標の実施および達成に向けた前進を補足するために必要な情報を定期的に提供すること」という、温室効果ガス排出の結果の透明化に反対を表明。さらにインドは、これまで温室効果ガスを大量に排出して経済発展してきた先進国に対し、発展の過程において大量のガスを排出してきた責任を認めるべきであり、発展期に入る途上国には、少々の排出は認めるなど、各国の義務の差異を認めよ、と従来どおりの主張を展開した。
EUは、京都議定書が法的拘束力を持たない協定だったことに加え、2009年にコペンハーゲンで開催された第15回締約国会合(COP15)でもポスト京都議定書の採択に至らなかったことに危機感を抱き、パリでの合意採択に向けさまざまな面で主導的な役割を演じた。
各国に先駆け2015年3月には「2030年までに温室効果ガスを少なくとも40%減少する」という世界で最も野心的な温室効果ガス排出量削減目標を国連の気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局に提出。9月には、EU理事会で、EUとして2050年までに温室効果ガスを50%削減、2100年までにカーボンニュートラルを目指す案を採択するなど、より野心的な目標を掲げた。さらに力を注いできたのが、人権擁護や民主化のみならず、環境問題を改善することを第三国に要請する環境外交政策。再生可能エネルギーに転換することで、天然資源をめぐるあつれきや緊張関係を減少させることもできるため、環境問題改善は民主化や紛争防止への道であるというメッセージを近隣国のみならず世界中に送り続け、各国と密接なパートナーシップを結んできた。
交渉では、最大の温室効果ガス排出国である中国と米国の主導で交渉が進められることが懸念される中、EUは、過去の環境政策における実績、環境外交によって絆を深めてきた多くのパートナー国との強い団結力を示して交渉を終始リード。先進国と途上国の「各国の義務の差異」で利害が対立した際には、いち早く先進国の過去の責任を認めるなど、柔軟な態度も示した。この、現場での機動力の裏には、EU理事会議長国(ルクセンブルク)がEU加盟28カ国間の調整を行い、欧州委員会(環境担当委員)が対外的な交渉を行う、という二者の絶妙な連携もあった。
会議終盤の12月8日、膠着状態に陥った交渉は意外な展開を見せた。EUは、アフリカ・カリブ海・太平洋地域の島嶼国、途上国ら79カ国と団結し「野心連合(high ambition coalition)」を立ち上げ、法的拘束力があり、公正で、野心的な協定を望む共通意志を有していることを発表。EU代表団団長であるミゲル・アリアス・カニェテ欧州委員会気候・エネルギー担当委員は「我々は、先進国・途上国、富める国・貧する国、小国・大国の横のつながりでできあがった連合であり、高い目標を目指す協定以外は受け付けない」と強い姿勢を示した。
翌日には、米国、ブラジルも賛同を示し、100カ国あまりで構成する「野心連合」が合意を主張。最終的には日本も同連合に加わったことなどから、野心的な協定の策定には消極的であった中国やサウジアラビアは孤立する形となった。パリ協定は長年にわたって気候変動対策の先頭を走ってきたEUの野心と努力が、世界各国にも反映されたことの表れともいえる。アリアス・カニェテ委員は「長期目標の設定、各国の5年ごとの目標提出、そしてそれを確認できる透明性というEUの提案が合意内容に含まれたことは感慨に堪えない」との声明を発表。EUとしては、新興国に一層の努力を要請するなど、より野心的な協定内容を求めていた部分もあるが、今回の協定内容は、期待していたものに非常に近いものであった。
パリ協定の署名手続きは2016年4月22日から1年間、ニューヨークの国連本部で受け付けられ、各国はそれぞれ国内の批准手続きに入るが、協定発効には世界全体の温室効果ガス排出量の約55%に相当する、締約国55カ国以上の批准が必要である。協定実施に向けたロードマップについては、本年発足するパリ協定ワーキンググループ(APA)で話し合われる予定だ。
本年11月にモロッコのマラケシュで開催予定の第22回締約国会合(COP22)では、パリ協定で先進国が途上国に約束した資金援助と技術提供の具体的な数値が明らかにされる予定になっている。地球の気温上昇を2℃未満に抑えるには、185カ国がCOP21開催前に国連の気候変動枠組み条約事務局に提出した温室効果ガス排出量削減目標だけでは難しいとされており、各国はさらに高い目標を掲げ、エネルギー供給の根本的変革に向けた一層の努力が求められる。
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